夜。
セラスがベッドのシーツを整えている背中に足を忍ばせて近づく。
いや、音を立てないようにしたところでセラスが気付かないはずがない。
だけど雰囲気というものが大事だ。
「セーラス」
名前を呼んで、後ろから飛びついた。
「うわっ、ご主人様。危ないですよ」
そのままベッドへダイブすると、私はセラスの背中の上に乗った。
「あんたがついてて危ないことなんてあるの?」
「いえ、そういう意味ではなくて・・・」
セラスの首筋に顔を寄せ、子どもの頃にしたみたいに噛み付く。
「~っ、ご主人様」
「なに、痛いの?」
「いえ、それは全く痛くないですが」
「なら良いじゃない」
噛み付いたって歯型も残らない。
吸い付いてみても鬱血の痕も残らない。
さて、どうしたものかと考えていると私の下にいるセラスが動きが止まったことを不思議に思ったのか、身じろきした。
「ご主人様、もう動いてもよろしいでしょうか」
「ダメ」
強く制するとセラスは諦めたように動きを止めた。
私に忠実なセラス。
私が恋をしている相手。
まさかドラゴンに恋をするなんて思ってもみなかった。
けれど、私にとってこのドラゴンは手放せるわけもなく、本当は首輪でもつけて繋いでやりたい。
(そんな事いったら喜んで首輪をしそうだから絶対言わないが)
「じゃあいいわ、セラス」
セラスの上から降り、隣に寝転ぶ。
金色の瞳が私を見つめた。
「あんたが私に痕をつけてよ」
「・・・はあ」
「意味分かってる?」
「いえ、痕というのは、肌を吸って鬱血させることでしょう。
ご主人様を傷つけるのは、私にはとても・・・」
「うるさい。いいからしてみせて」
「・・・それでは失礼します」
困ったように眉間に皺を寄せるが、言い出したら聞かないことを分かっているセラスは私の首筋に顔を埋めた。
そしてさっき私がしたように、首筋を吸う。
「-んっ、」
「痛いですか」
「痕はついた?」
「赤くなっていますけど、どうしてこんな事を?」
「いいの」
どうしてそんな事をって野暮なことをこれ以上聞かれたくなくて、私は目の前のドラゴンの頭を掻き抱いた。そして、頭をなでてやると息を飲むのが分かった。
本当にこのドラゴンは頭を撫でられることが好きなんだから。
可愛くて仕方がない。
「あんたにも残せたらいいのに」
つかの間だとしても、何かをセラスに残したい。
そんなワガママを、私は望む。
「あなたが私にくれたものは、私の全てになります。
例えそれが形に残るものだろうと、そうでなかろうと」
「・・・そう」
セラスをきつく抱き締めると、私は微笑んだ。