(・・・あ、リシャールだ)
休日のある日のこと。
買い物を済ませ、街をぶらぶらと歩いているとリシャールの後ろ姿を見つけた。
以前もこの通りで見かけたことがあって、挨拶すると「いきなり声をかけるな」と怒られたことを思い出した。
いきなり声をかけるなって難しい。
「声をかけますよ」って言って声をかけると、それもきっといきなり声をかけていることになるし。
でも、せっかく会ったんだから。
少しでもお話できれば嬉しいし。
どうしようかと考えている内にリシャールの姿は遠ざかっていく。
「あ・・・っ」
リシャールは気付いていないんだからそのまま見失ってしまっても良かったかもしれない。
だけど、気付いたら身体が動いていて・・・
駆け出して、リシャールの腕を掴んでいた。
「-っ!?」
「こ、こんにちは、リシャール」
「急に腕を掴むな!」
「ごめんなさい、こないだいきなり声をかけるなって言ってたから声かけない方が良いのかなって」
案の定思っていた言葉を言われ、ちょっと落ち込む。
ちょっとだけ落ち込んだことに気付いたのか、リシャールが戸惑ったように息を飲んだ。
「~、そこまでして僕に挨拶をしたかったのか、お前は」
「え?」
「なんだ、その反応は」
「え、えーと・・・そうかな?」
「そうか・・・」
「うん」
「・・・」
なんだか気まずい沈黙が流れる。
このまま立ち去ったらまた叱られる気がするけど、もうそれしかないだろう。
「お前はいつまで僕を掴んでいる気だ」
「え?あ、ごめんなさい」
リシャールを掴んでいた手を離そうとすると、その手をなぜかリシャールに掴まれた。
「誰が離せと言った」
「え、でも」
「お前は本当に愚鈍な女だ」
「・・・」
「黙るな、行くぞ」
「どこに?」
「お前は黙ってついてくればいいんだ」
黙るなって言ったり、黙れって言ったり・・・
リシャールはよく分からない。
だけど、私の手を掴むリシャールの手が少し汗ばんでいて、もしかして緊張しているのかな、と思うと全部可愛く思えた。
「ふふ」
「なんだ、いきなり笑い出して」
「ううん、なんでもない」
「・・・ふん」
なんでもない休日が、いつもと違う日になるまであと少し。