嘘つき(マイアリ)

久しぶりに妹の顔でも見ていくか、となかなか手に入らない薬草を土産に家に立ち寄った。

「お久しぶりです。マイセン様」
「おう、セラス。元気にしてたか?」
「ご主人様は相変わらずですけどね」

妹の忠実な僕であるドラゴンは困ったように笑った。
おそらく睡眠時間だったり、諸々を削っているのだろう。
さすが我が妹。没頭すると何もかも見えなくなるようだ。
セラスといくつか言葉を交わし、俺はアリシアがいる部屋へ移動する。
数回、ドアをノックするが返事はない。
そっとドアを開くと、アリシアがいた。

 

「・・・ひさしぶりだな」

微かに寝息を立てて、アリシアは眠っていた。
実験が一段落したのか、ソファの上に寝転がり、胸元には読みかけの本が載っていた。
足音を立てないように一歩ずつ近づき、アリシアのすぐ傍にしゃがみこんだ。

こうしていると昔のことを思い出す。
怖い夢を見た時だったり、急に寂しくなってしまったとき、寝付けないとき・・・高熱を出したとき。
アリシアの手を握ってやっていた。
俺以外に縋るものがなかった幼い妹は、その小さな手で俺の手を握り返した。

「アリシア」

アリシアの左手を取り、両手で包み込むと俺は目を閉じた。
幸福になることを願ってる。
願ってるのに、アリシアが誰かの手を握る日なんて来なければいいのに、と願う自分がいる。

「・・・アリシア」

何度も名前を呼ぶ。
その姿は、まるで神様にすがる囚人のようだ。

 

 

「マイセン・・・?」

小さな声が聞こえたと思ったら、そっと俺の頬に触れる手。
目を開くと、眠そうな顔で俺を見上げるアリシアがいた。

「・・・おはよう、アリシア」

「・・・なにかあったの?」

「え?」

「マイセンが泣いてるのかとおもった」

驚きを隠すように俺は笑みを浮かべる。
握っていた手をそっと離そうとすると、今度はアリシアに握られてしまった。

「なんだか小さいときみたいね」

「・・・そうだな。もう少し寝ておけよ」

「わたしが起きるまでいてくれるなら」

寝起きだからだろうか。
まるで昔に戻ったみたいに、アリシアが可愛らしいことを口にする。

「ああ、いるよ。お前が望むんならいくらでも」

「嘘ばっかり」

「嘘じゃないから・・・おやすみ、アリシア」

「おやすみ、マイセン」

再び眠りに落ちたアリシアの額にそっと口付けを落とした。

 

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