アップルパイ(シュン×ココロ)

転生後のおはなしです。

 

 

 

 

「春斗、誕生日おめでとう!!」

俺の・・・恋人である心が目の前でとびっきりの笑顔を浮かべている。

「ああ、さんきゅ」
「春斗ってばリアクションつめたいなぁ」

ショックを受けたと口では言うが、俺の顔が赤くなっているのを眺めて嬉しそうだ。
テーブルの上には心が作ってくれたアップルパイだ。
子どものころはよく、母さんと二人で食べたアップルパイ。
その話をこないだ聞いたからか、心は一生懸命練習をしたようだ。
あんまり料理、得意じゃないくせに。

「ね、食べよ!」
「見た目はうまく出来てるじゃねえか」
「でしょでしょ?いっぱい練習したんだ!」

切り分けるために包丁を差し込めば、さくりと美味しそうな音がする。
ご機嫌な様子で切り分けると、皿に一つ載せてくれた。

「はい、どうぞ!あ、ろうそく!」
「アップルパイにろうそくは刺さないだろう。
いいよ、このままで」

フォークで一口分取ると口に放り込む。
黙って咀嚼する姿を心はじぃっと見つめていた。

「ん、うまい」
「やった!良かったぁ!!」「おまえも食えよ」

同じくらいの大きさをフォークにとり、心に差し出すが心は困ったような顔をして食べようとしない。

「でもこれ春斗のために作ったものだし・・・」
「その俺が食えって言ってんだから食えよ」

差し出してるのもなかなか恥ずかしい。
照れから舌打ちをしそうになるのをぐっと堪えると、心が伺うように俺を見つめた。

「・・・いいの?」
「ああ」
「じゃあ、いただきます!」

食べさせてもらうということに照れがないのか、ぱくりと頬張ると幸せだ~というように表情が緩んだ。

「美味しい!すごい上手に出来たね!」
「自分で言うなよ」
「だって練習でもこんなにうまくいかなかったもの!」

去年は心が17歳だった。
あの時、なぜだか分からないけど心の17歳の誕生日を迎えられたことに心底安堵した。
おかしいよな、初めて祝うわけでもないのに。
あのとき、心がなぜだか涙を零した。
あいつ自身、どうして自分が泣いているのか分かっていないようだったが、心自身も安堵したのかもしれない。

そうして、今日は俺の17歳の誕生日だ。
心は次の春、高校を一足先に卒業する。

「・・・なあ」
「なに?」

進学せずに就職すると心は言っていた。
どれくらいすれ違うようになるんだろうか。
心にちょっかいを出す奴が現れるんじゃないか。
そんな情けないことも頭によぎる。

「心はさ、彼氏が年下なんて嫌じゃねえの?」
「えー」

アップルパイをもぐもぐと食べる。
心は俺の言葉に少しだけ考えるように目を閉じる。

「うーん・・・」
「・・・」
「あ!春斗はもしかして知らない?」
「なにをだよ」
「女の人と男の人だったら女の人のほうが長生きするんだって!
だから、男の人が年下のほうが長く一緒にいられるよ!」

一つ年上のおねーさんを気取るように得意げに心は笑った。
ああ、なんというか・・・

「ばーか。そんなもん、知ってるよ。
それに一つしか違わないんだからあんまり関係ないだろ」
「えー、そうかなぁ。
でも、私は春斗と長くずっと一緒にいられたら嬉しいな」

どうして、心は俺がほしい言葉をくれるんだろう。
意識して紡いだわけではないだろう、その言葉に、想いに掴まれる。

 

「おまえといれて、良かった」
「え?」
「なんでもねえ、口についてるぞ」

パイくずを口の端につけた一つ年上の恋人に手を伸ばし、照れを誤魔化すように少し乱暴にそれを拭う。

「もう一切れくれよ」
「でも、おばさんと一緒に食べる分なくなっちゃうよ?」
「また作ってくれよ、いいだろ?」
「・・・うんっ!」

二人で食べたアップルパイは子どもの頃食べたものよりずっと美味しくて、きっと一生忘れないだろうな。

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