Good Night(レイユイ)

漆黒の髪、マゼンタの瞳。
私のどこが、父親似で、どこが母親似なのか・・・誰か教えてくれればいいのに。鏡を睨むように見つめていると、遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
その声につられて、駆け出せば母上が笑って抱き締めてくれるんじゃないか
幼い自分はそんな事を願っていた。

 

 

 

「レイジさん?」
「-っ、」

はっと目を覚ますと、すぐ傍には心配そうな瞳で私を見つめる彼女の姿があった。
カーテンを閉め切っているが、日の光が僅かに差し込んでおり、寝付いてからそんなに時間が経っていないことが分かる。

「うなされていましたけど、大丈夫ですか?」
「ええ・・・大丈夫です」
「レイジさん・・・」

大丈夫だといっても心配そうな表情は変わらない。
抱き締めてあやそうと手を伸ばすと、その手を制される。
そのことに少し驚いて、視線を彼女に戻すと意を決したような表情に変わっていた。

「・・・どうしました?」

がばりと起き上がり、彼女は私のすぐ傍に正座をすると膝の上をぽんぽんと叩いた。

「・・・どうしました?」

同じ言葉をもう一度投げかけると、ようやく口を開いた。

「レイジさん、ここに寝てくださいっ」
「貴女は一体何を考えてるんですか?」
「お願いですから、少しでもいいですから」

何を思ってそんな事を言っているのか分からないが、いわれるがまま体を少し起こすとそのまま彼女の膝の上に頭を乗せた。
肉付きが良い方ではないけれど、なんともいえない寝心地に少し恥ずかしくなる。
彼女はどんな顔をしているのだろうか。顔を上に向かせようとすると、髪に触れる彼女の手に制される。

「・・・何をしてるんですか」
「いい子いい子ってしてます」
「私が子どもだと?」
「そうじゃなくて・・・レイジさんだって、誰かに甘えたっていいんです」

こうやって誰かに頭を撫でられるなんて、幼い頃の記憶を辿っても見つからない。
決して甘やかされたかったわけでも、優しくされたかったわけでもない。
生まれた順番、ただそれだけで自分は日陰の人間だった。
そして、この髪の色は一体誰に似たのか。母親であるベアトリクスも、父親であるカールハインツも黒い髪ではない。
メイドたちが私を不義の子ではないかと噂していたことも知っている。

「貴女は愚かですね」
「そうですか?」
「ええ、とても。私にそんな風に同情したって何もないでしょう」
「同情じゃないです。それに何もないってことはないです」
「ほう・・・じゃあなんだと言うんですか?」
「私はレイジさんといると、とても幸せだし、安らぎます。
だからレイジさんにとって、私も少しでもそうなれたら良いなって・・・
ごめんなさい、変なこといって」

頭をなでる手が、ふと止まる。

「誰が止めていいと言いました?」
「え、」
「私が良いというまで・・・手を止めることは許しません」
「・・・ふふ、はい」

彼女がどんな顔をして私の頭を撫でているのか。
確認したがったが、彼女の触れる手が心地よくて気付けばうとうとしはじめていた。

「いつも思っていたんですけど、レイジさんの髪って綺麗な黒髪で素敵ですね」
「貴女がそういうなら・・・この髪も悪くありませんね」

子守唄のように優しい声に包まれながら、今度は穏やかな夢が見られるのではないかと眠りに落ちた。

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