あなたと夕食を(リッカ×ほとり)

※リッカEND後です。ネタバレですのでご注意を

 

 

 

 

ずっとずっと待っていた愛おしい人が手の届く場所にいる幸せ。

 

「ほとり」

明日から3連休。
生徒にとっても教師にとっても一大イベントである期末考査も終わってほっと一段落。
いつもなら終わらない仕事のために休日出勤になることもあるんだけど、今回は特別。

「・・・ほとり」
「きゃっ」

キッチンで煮込みハンバーグを作っていると、いつの間にか私の後ろにいた立歌君に抱き締められ、突然のことに思わず声が出てしまう。

「料理中に危ないよ!」
「何度も呼んでいるのに、あなたが上の空なのがいけないんです」
「だって・・・」
「だって・・・なんです?」

今日は久しぶりのお泊まりだ。
彼はまだ高校生だし、あまりしょっちゅう外泊をするのは良くない事だ。
二人でいるときは恋人同士だけど、私はやっぱり先生だから立歌君のそういうところを心配してしまう。
だから-

「ゆっくり一緒にいれるのが嬉しくて、つい浮かれて立歌君の声に気付きませんでした・・・」
「・・・あなたは変わらないですね」

ちゅ、と耳朶にキスを落とすと立歌君は笑った。
触れられる距離に立歌君がいることが嬉しくて仕方がないのに、こういう触れあいになると恥ずかしくて俯いてしまう。

「ほとり、フライパンが焦げてます」
「え、嘘っ」
「嘘です」

驚いて俯いた顔をあげると、立歌君はまた笑った。
焦げていない事を念のため確認し、フライパンの火をとめて後は余熱で仕上げる。
ようやく私は振り返り、立歌君をぎゅっと抱き締めた。

「立歌君の意地悪」
「ほとりが可愛いからつい苛めたくなるんです」

向き合って抱き合いながら、立歌君が私の髪を優しく梳いた。

「あの頃も思っていましたけど、ほとりの髪は綺麗ですね」
「・・・っ、そうかな」
「ええ、とても綺麗です」

そのまま持ち上げ、毛先にもキスを落とす。
髪の毛なんて、何も神経が通っていないのにどうしてだろう。体温が上がった気がする。

「立歌君の髪もふわふわして綺麗だったなぁ」

あの頃の彼は髪が長かった。
男の人なのに、綺麗だと思ったことが思い出された。
片手を身体から離し、そのまま頭に手を持っていく。
撫でると、さらさらとした髪が心地よい。

「今の髪型は気に入りませんか?」
「ううん、今の立歌君も素敵だよ」

私の言葉を聞いて、ほっとしたように笑みを浮かべる。
立歌君が笑ってくれることがとてもとても嬉しい。
頭をなでる手を滑らせて頬に触れた。

「ねえ、立歌君」
「なんですか」
「ごめんね、私が先生だから・・・堂々とデートもできなくて」

誰かに知られてはいけない恋。
私たちは先生と生徒だから、知られればどうなるか分からない。
高校生という多感な時、他のひとは堂々と恋をして、デートをしている。
私が高校生だった頃もそうだし、今の生徒たちを見ているとやっぱり堂々と付き合うことは楽しそうだ。

「ほとり」

立歌君に名前を呼ばれるのが好きだ。
彼の声で紡がれる自分の名前はトクベツなものに感じる。

「堂々とデートできないからなんだっていうんですか」

髪を梳いていた手が気付けば私と同じように頬に触れた。

「ほとりに会うために私はここにいるんです。
あなたがいないなら何にも意味はない」「立歌君・・・」
「それともあなたは堂々とデートできないから私と一緒にいたくないんですか?」
「そんなわけない・・・!!」
「私も同じ気持ちです」

ちゅ、と今度は額にキスをしてくれた。

「私が卒業するまでのたった三年足らずの時間です」
「・・・うん」

彼を待った時間に比べればあっという間だ。
彼の言葉が嬉しくて、思わず涙ぐんでしまうがここでは涙はふさわしくない。
私は彼のように優しく微笑むことは出来ていないかもしれないけど、精一杯微笑んだ。

「立歌君、だいすき」

少しだけ背伸びをし、彼の頬にキスをした。
不意打ちだったからか、珍しく彼が驚いたように目を大きくした。

「・・・あなたには敵いません」
「え?」

ぽつりと呟くと立歌君は突然私を抱きかかえ・・・いや、これはお姫様だっこだ。
唐突にお姫様だっこをされ、私は驚いてしがみつくように彼の首に腕をまわす。

「まだ、ご飯の支度・・・っ」
「ハンバーグは余熱を通しているところでしょう」
「だからもうすぐで支度終わるよ!」
「待てません」「り、りっかくん!」
「好きです、ほとり」

そう言われてしまえば私は何も言い返せない。
顔が熱い。絶対真っ赤になっているであろう顔を立歌君の肩に押し付ける。
彼に喜んでもらいたくて作ったハンバーグが、彼の口に入るのはもう暫く先になりそうだ。

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