もう少し(玉鼎×楊栴)

いつも宝物を扱うように師匠は私に触れる。
それは昔から変わらない師匠の優しさで、大事にされていることを実感できて嬉しくなる。
今の私と師匠は恋人同士なのだけれど、あまりそういう雰囲気にならないというか・・・
変わったような変わらないような少し微妙な間柄だ。
以前から師弟関係ではなく、夫婦のようだと囃したてられていたから、こういうものかなと思うこともあるけれど。
その・・・師匠から口付けをされたりする事が非常に少ない。
そういう恋人としての触れ合いが少なくて、私は少し不安になっていた。
愛そうと決めて、私を愛する事にした師匠。
それが偽りの愛ではなくて、今は本物だと信じているけれど。
師匠はこのままで良いと思っているのかな。

 

 

 

扉が開く音がして、振り向けば師匠が立っていた。
外出したときより服に土がついていたりと汚れていたからまた野生の動物たちに襲われたのかもしれない。

「おかえりなさい」

「ただいま、楊栴」

師匠に近づくと、優しく微笑まれそのまま優しく抱きすくめられる。
師匠は帰ると必ずこうやって私を抱きしめてくれる。
だから私もそっと師匠の背中に腕を回して抱きしめ返す。
それからしばらくして体を離す。
私は食事の準備の途中だったので、それに戻り師匠は部屋に戻っていた。料理を手伝ってくれようとするのだけれど、師匠の不運があるので、いつも丁重にお断りしている。
幾ばくか時間が経ち、食事の支度が出来たので、師匠を呼びに彼の部屋を軽くたたく。

「師匠、食事の支度が出来ました」

声をかけても返事がない。
そっと扉を開くと、師匠は椅子に腰掛けて瞼を閉じていた。

「師匠・・・」

顔をのぞけば、微かな寝息が耳に届く。
疲れているのかな
起きている時はあまりしないけれど、師匠の頭にそっと触れた。
普段師匠がしてくれるように彼の頭を優しく撫でる。

「・・・かわいい」

穏やかな愛情を、抱きあっていると思う
愛してるから殺すといわれた事もあったけれど、それでも今の私たちの間にあるのはそういうものがなくなった暖かな形。
でも、私はもっと・・・
師匠に触れたいし、触れられたい。
はしたないと思われるかもしれないけれど、師匠をもっと感じたい。

私たち以外、ここには誰もいないと分かっているけれど周囲をきょろきょろと確認し、それからそっと師匠に口付けた。
師匠からあまり触れてくれないから悪いんだ。
師匠のせいだと心で言い訳しながら体を離す。

「楊栴」

離そうとした体は師匠に腕をつかまれてしまい、逆に引き戻されて、師匠の体の上に倒れこむ格好になる。

 

「し、師匠・・・っ」

「どうした?」

空いてる手で私の唇をそっとなぞる。
先ほど触れた唇を思い出し、思わず頬が熱くなる。

「起きていらっしゃったのですか・・・?」

「楊栴が部屋に入ってきた気配でな」

「・・・人が悪いです」

「楊栴からの口付けを受けるとは思っていなかったから」

「う・・・」

恥ずかしくなって視線をそらす。
唇をなぞっていた手が頬に添えられて、視線を無理やり合わせられる

「私は嬉しかったよ、楊栴からの口付け」

「・・・師匠があまりしてくださらないから」

穏やかに微笑む師匠に日ごろ思っていた言葉を吐き出す。

「師匠はあまり私にこういう風にしてくれません
私は、もっと師匠と・・・
恋人らしい触れ合いがしたいんです」

師弟関係のころと変わらない触れ合いだけなんて寂しすぎる。
私は師匠を愛しているのに。
意を決して、全て伝えれば師匠の顔が近づいた。
そして、そのまま口付けられた。
先ほど私がしたような触れるだけの口付けじゃなく、
たまに師匠からしてくれる優しい口づけじゃなく、
まるで全てを奪うような口付け。
下唇を軽く甘噛みされたかと思えば、わずかに開いた口内に師匠の舌が滑り込み、私のそれを絡めとろうとする。
どう応えれば良いのか、分からないけれど本能でそれに応える。
どのくらい口付けしていたのだろう。
師匠が唇を離したころには私の息は上がっていて、酸素が足りていないのか頭が少しぼーっとしていた。

 

「歯止めがきかなくなるけど、良いのか?」

「・・・はい」

私を見つめるその瞳は今まで見た事がない色をしていた。
初めて、師匠が私に欲情している。
まだ私の知らない師匠がいる事に胸が弾む。
こんなに長い時間を共にいるのに、こんな師匠がいたんだ。
今度は離れた唇を私から重ねる。

 

 

甘い痛みが身体に残り、
気づけば寝台で師匠に抱きしめられたまま眠っていたようだ。

「目が覚めたのか?」

「はい、師匠も起きていたのなら起こしてください」

「こうしてお前の寝顔を見つめているのも幸せだな、と思っていたんだ」

「・・・もう」

恥ずかしくなり、師匠の胸板に顔を押し付ける。

「師匠・・・愛してます」

「私も、お前を愛しているよ。楊栴」

そう囁きあい、私たちは再び唇を重ねた。

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