last smile(ヴィルラン←ニケ)

彼女の父親を殺した事に罪悪感なんてなかった。
だってそうしないと生きていけないのだから。
僕が間違ったのはいつからなのだろう
彼女と親しくなった事?
彼女と知り合ってしまった事?
それとも・・・

生まれてきた事なのだろうか

「ここにいたんだ、ニケ」

森の近くでランに出くわす。
その隣には当然のようにヴィルヘルムがいた。

「やあ、二人はデート?」

「デートじゃないよ、もう」

僕の言葉を聞いて、ランは恥ずかしそうに手を振って否定した。

「そうだよね・・・デートならこんなところ来ないか」

ちらりとヴィルヘルムを盗み見れば僕の事は全く気にしていないらしく、
森の奥を見つめていた。
さっきまでギルドからの連絡を受けていたので、内心気付かれたかと心がざわつく。
ヴィルヘルムは勘が鋭い。
ボロは出していないけど、油断してはいけない。

「ラン、何度も言ってるけど森の奥は蛇が出るから行っちゃ駄目だよ」

「うん、分かってる。
それじゃあね」

森の入口で別れると、背を向けて歩き始める。
離れたところで振り返ると、ランとヴィルヘルムは手を繋いでいた。
心がざわつく。

どうして彼女は彼を選んだのだろう

彼女の父親を殺した僕には彼女を愛する権利なんてない
愛される権利もない
だからランの幸せを願えばいい
彼女がもう悲しい想いをしなくてもいいように
僕が出来るのはそれだけなのに

ヴィルヘルムが彼女に触れるのを見るだけで目の前が真っ暗になる
どうして僕は彼女に触れられないんだろう
この手が真っ赤に染まっているから?

極力、二人が一緒にいる姿を見ないように。
僕が出来るのはそれだけ。
それだけなのに・・・

「・・・ラン?」

足りなかった薬草を摘んで、衛生斑の作業部屋へ戻るとそこにはランがいた。
机に突っ伏して彼女はすやすやと眠っていた。
僕の事を待っていたのだろうか。
眠る彼女の傍らにはサモサが入った袋があった。
僕の為に・・・買ってきてくれたのかな
そう思うと自然と笑みがこぼれた。
彼女が眠る机の隣に座り、彼女の寝顔を見つめた。
本当にランは綺麗だ。
見た目も、心も・・・綺麗なものだけで出来ているような人だと感じていた

「・・・ム、」

夢を見ているのか、彼女は掠れた声で寝言を紡ぐ
どんな夢を見ているのかな、
耳をすませてもう一度言葉を待つと、僕はその行為をすぐさま後悔することになった。

「ヴィルヘルム・・・」

ランの夢にもヴィルヘルムしかいない
僕は彼女の世界のどこにもいない

悔しくて下唇を強く噛んだ。
それから僕は眠るランに口づけた。
顔を近づけた時に香った彼女の甘い香りに目の前がくらくらした。

「・・・ん」

数秒のような、数時間のような時間が流れ
そっと唇を離す。
起きる気配はない。
穏やかに彼女は眠り続けている。
ヴィルヘルムとはもうキスをしたのかな
僕が初めてならいいのに

そっと頭を撫でていると、ランはようやく目を覚ました。

「・・・ニケ?」

「おはよ、ラン」

眠そうな瞳を手でこすりながら僕を捉える。

「ごめんなさい、ニケの帰り待ってたら寝ちゃったみたい」

「待たせちゃったみたいだね。
どうかしたの?」

「これ!買ってきたから一緒に食べない?」

ランの傍らにあったサモサ入りの袋を示すと彼女は微笑んでそう告げた。

「うん、ありがとう」

何事もなかったように僕も笑う。

どうして一番欲しいものは手に入らないんだろう

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