小さな幸せ(暁七)

久しぶりの一日休み。
普段も半休だったり、一日休みはあることにはあるが、家事に追われてゆっくり休むということはあまりない。
それは決して七海が家のことをしていない、できないという事ではない。
俺がしたい事が多いだけだ。
休みの日に二人で洗濯物を干したり、料理をしたり、掃除をしたり。
そういうところにある何気ない幸せが、俺にとってはとても大事だから。

「暁人、はやく」
「ああ、わーってるよ」

俺の手を引き、ようやく着いたのは緑溢れる公園だ。
人はそこまで多くないが、ちらほら家族連れを見かける。
まだ昼には早いが、七海は持ってきたお弁当が楽しみらしく、俺の服の裾を軽く引っ張って訴えてくる。

「暁人、お弁当」
「・・・おまえ、早くないか?」
「そんなことない。暁人のお弁当が良い匂いしてるから」

小動物がじっと見つめてくるような愛らしさがある。
俺はその視線に耐え切れなくなり、七海の頭をくしゃりと撫でると少し早いが、草の上にシートを敷いた。
七海は俺が何をするか察して、嬉しそうにシートの上に座った。
向かい合って座り、持っていたバスケットから二人で作った弁当を取り出した。
弁当の定番である唐揚げに卵焼き、たこさんウィンナー。
一緒に作っていたのだから中身を知っているのに、蓋を開けると目を輝かせて喜んでくれる。

「いただきます」
「おう、いっぱい食え」

両手を合わせてからおにぎりを片手に持つと、口を大きく開いて頬張る。
俺も両手を合わせると、唐揚げを口に放り込んだ。
冷めてから味が馴染むだろうと思っていたから揚げたての時は少し味が薄いんじゃないかと思うくらいにしておいて正解だったようだ。

「うまいか?」
「うん、美味しい」

舟にいた、あの頃より表情が豊かになった。
いろんなこいつを見てきたけれど、やっぱり一番は笑った顔だ。

「暁人、どうかしたの?」
「ん、なにが?」
「にこにこしてる」
「あぁ、今日は良い天気だな」
「うん、こうやって二人でゆっくり過ごせて凄く嬉しい」
「・・・そっか」
「うん」

そよそよと優しい風が吹く。
ああ、おだやかな休日だ。
天気も良いし、休日だし、何よりも七海が隣にいる。

ふと、近くにある薄紫色の花に気付いた。
まるで七海の髪の色のような色に思わず笑みが零れた。

「七海」

最後のタコさんウィンナーを口に入れたタイミングで名前を呼ばれ、もぐもぐとしながら俺を見つめる。
俺はポケットに入れていた、いつ渡そうか渡そうかとタイミングを伺っていた・・・もとい隠し持っていた小さな花をあしらったヘアピンを七海の耳元へつけてやった。

「うん、似合うな」
「・・・・っ、暁人」

俺の行動に驚いたのか、口の中のものを慌てて飲み込むと、今しがた俺がつけてやったヘアピンへ手を伸ばした。

「まだ取るなよ」
「で、でも・・・こういうのは、私似合わない」
「おまえ、見てないだろ。それにお前に似合うと思って買ったんだから」

仕事帰り。
ふと目に留まったそれは、七海に似合うだろうと思って買ったものだ。
いつ渡そう、今日渡そう・・・いや、明日だ・・・とやっている内に一週間経ってしまった。
照れくささを誤魔化すように七海は上目遣いに俺を睨んだ。
そういう表情が、ダメなんだよ・・・すっげーよわい。

「暁人は・・・やっぱり眼科に行った方が良い」
「そんな事ねえよ、おまえは・・・・かわいい」

一緒になろうと、誓い合ったくせに未だにそういう言葉は照れてしまう。
でも俺が言わなければ、こいつは慣れないから。
少しでも慣れてくれればいいな、と願いながらそういう恥ずかしい言葉を口にする。

「・・・暁人、」
「ああ!!食い終わったんなら歩くか!」

恥ずかしさを誤魔化すように、俺は弁当箱を片付ける。
バスケットに全てしまい終わると、七海はさっき弁当を食べたいと訴えた時のように俺の服の裾を引っ張った。

「暁人・・・ありがとう」
「・・・ああ、」

俺の服を掴んでいた手を包みこむと、きゅっと握った。
うまい言葉なんて全く浮かんでこないが、ああ・・・馬鹿みたいに幸せだと自然に笑みが漏れた。

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