瞳にうつる(朔深)

「きゃっ」
「深琴・・・っ」

砂浜で足をとられてよろけた私を朔也が支えてくれた。

「大丈夫?深琴」
「ええ、大丈夫。ありがとう、朔也」

安心したように微笑むと、そのまま手を繋いだまま朔也は歩き始めた。
私もその後ろを歩く。
幼い頃は朔也が私の背中を追いかけることが多かった気がするのに・・・
今はこうやって朔也に手をひかれるようになるなんて。

「ふふ」
「どうかした?」
「朔也の背中を追うなんて新鮮だから」
「だって僕が深琴をずっと追いかけていたんだから」
「・・・そうね、いつだって朔也は私を見守ってくれていたわね」
「見守ってたのかな。深琴に悪い虫がつかないようにって必死だったのかもね」
「もう」

ここには私たち以外いない。
波音だけが静かに響く。
朔也の背中、大きく感じる。
普段あまり意識していなかったけれど、朔也は整った顔をしているため男性という強いイメージが湧かない。
けれど、こうして繋いだ手が思いの外骨ばっていること。
それにいつの間にか越された身長。
朔也は異性なんだと改めて実感する。

「いつ・・・」
「ん?」
「いつ、背抜かれたのかしら」
「深琴と会わない時間、長かったから」
「そうね・・・」

幼馴染だけれど、生まれてからずうっと一緒にいたわけではない。
私の孤独、朔也の孤独・・・それぞれ分かち合えない部分だってあったはずだ。
過去を振り返ったって仕方がない。
振り切るように目を閉じると、朔也の手のぬくもりだけ感じた。

「でも、これからは朔也のことで知らないことなんてないわね。
だって私達はこれからずっと一緒にいるんだもの」

そう、これからの未来は私と朔也が離れることなんてないんだもの。
繋いだ手を少しだけ強く握る。
朔也は驚いたように振り返った。

「やっぱり深琴は凄いな」
「え?」

立ち止まり、そのまま私を抱き寄せた。
繋いでいない手がそっと腰に回る。

「僕の欲しい言葉、くれるから」
「・・・朔也」

額と額をくっつけると、朔也が嬉しそうに微笑んだ。

「深琴をこうやって抱き締められる日が来るなんて、あの頃は思っていなかったよ」
「あの頃?」
「深琴より、背が低かった頃・・・かな」

幼い頃を思い出し、私も微笑んだ。
あの頃の私が今の私を見たらどんな顔をするんだろうか。
朔也との未来なんて、ないと思っていた。
生涯交わらないと思っていた私と朔也の未来が、今こうして寄り添えた奇跡。
きっと泣いてしまうんだろうな。
そんなことを考えながら、朔也の頬に触れた。

「朔也、ずっと一緒にいましょう」
「うん、もう二度と君から離れないよ」

朔也の瞳にうつる自分が、今までみた事ないくらい幸福そうにみえた。

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