小春日和(正こは)

「正宗さんのお名前って漢字で書くとどういう字になるんですか?」

こはるに勉強を教えていたある日のこと。
ノートに文字を書いていたこはるが思い出したように口にした。

「どうしたんだ、急に」
「いえ、七海ちゃんはななつの海と書くと言っていました。
それから他のみなさんにも教えていただいたのですが、正宗さんにはお聞きしていなかったなぁ・・・と」
「ああ、そうか」

こはるが持っていたペンを手に取り、俺は自分の名前を書いた。

「こういう字だ」
「ありがとうございます!正宗さんのお名前には”正しい”という文字が入っているんですね!
なんだか凄く正宗さんらしいです!」
「そうか?」
「はいっ!」

力強く頷くこはるを見て、少しだけ苦笑いを浮かべる。
俺がしていることは正しいのかどうか、今もまだ俺自身には分からない。
だけど、無垢なこはるの瞳に映る俺は正しく見えているんだろうか。
こはるの頭をぽんぽんと撫でる。

「私の名前は・・・」
「ん?」
「私の名前が、もしも漢字だったらどういう字になったんでしょうか」
「こはるの名前か。そうだな・・・」

自分の名前を書いた下にこはるの名前を漢字で書いてみる。

「俺のイメージだと、これかな」
「小さい、春ですか?」
「ああ。こんな言葉があるんだぞ」

近くにあった辞書を手に取り、目当ての単語を探す。
頁をぱらぱらとめくっていくとようやくたどり着いた。

「ここだ」

目当ての単語を見つけ、それを指差すとこはるはそれを目で追った。

「小春日和・・・ですか?」
「ああ、そうだ。小春日和っていうのは秋から冬にかけて穏やかな暖かい日のことを言うんだ」
「秋から冬になるときに暖かい日があるんですか?」
「ああ、そうだ。珍しい日だからそういう言葉が出来たんだろうな。
まるでこはる、おまえみたいだろう?」
「え?」
「こはるが来てくれて、俺はすごく感謝しているよ」
「・・・正宗さん」

笑いかけると、こはるが驚いたように俺をじっと見つめていた。

「なんですか、遠矢さんは人目を憚ることなく自分より大分年下の女の子を口説くような気持ち悪い性癖を隠すことがなくなったんですか。
羞恥心とかそういうものはかなぐりすてたんですか」
「千里くん!」
「千里、おま・・・!」
「はっきりいってちょっと引きました。用事があって図書室に来てみたらまさかこんな場面に出くわすなんて」
「千里くん、お部屋から出てきてたんですね!」
「はい、すぐ戻りますけどこはるさんもあまり危ないヒトと二人きりにならない方が良いですよ」
「千里、おまえなぁ・・・」
「そんな事ないです!正宗さんは優しくて、とっても素敵な方です!」

千里は一瞬驚いた顔をするが、すぐいつもの表情に戻って目当ての本を抱えて出て行った。

「あー・・・その、なんだ」
「はい」「・・・続きの勉強、しようか」
「はいっ!」

ひだまりのような笑顔で、こはるは頷いた。

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