二人だけの家庭菜園(暁七)

ある春の日、庭に薬草の種をまいた。
それから庭の手入れをすることが楽しくなってきて、暁人と一緒に野菜の種もまいた。
季節は夏。
ミニトマトが小ぶりだけど食べてくれといわんばかりの赤色になった。

「暁人、これ食べれる?」
「ああ、良いんじゃないか」

服の裾を広げて、籠代わりにそこに入れようとすると暁人に手を掴まれる。

「服、汚れるからこれ使え」
「暁人、めざとい」
「お前の考えてることくらい分かるっての」

収穫に使うにはちょうど良い大きさのざるを手渡される。
それにとったばかりのミニトマトを載せる。こういうことをしていると舟にいた時のことを思い出す。
結賀さんとは頻度は多くないが、手紙をやりとりは続いている。
こはるさんたちとも手紙はやりとりしており、こはるさんは相変わらず楽しそうに笑っているみたいでほっとする。
ついこないだまでは4人で暮らしていたのが嘘みたい。
今は暁人と二人だけ。
少しだけ寂しいと思うときもあるけれど、眠る時暁人が手を繋いでくれると寂しさなんてどこかへいってしまう。

ざるに載せてあった布巾でミニトマトを拭うと暁人の口元へ運んだ。

「暁人、あーん」
「な・・・っ」

暁人は驚いたように頬を赤らめて私とトマトを交互に見る。
私はもう一度、口を開くよう催促する。

「暁人、あーん」
「七海が食べろよ、それ」
「ダメ、一番最初は暁人」
「どうしてだよ・・・おまえが一生懸命育てたやつだろ」
「私が暁人に食べてほしいって思ってるから」

毎日、育ってるか見に行くのは楽しい。
少しずつ大きくなって、緑色から赤くなっていった時には感動した。
これは舟にいるときには思わなかったこと。
何かを育てる、というのはこういう気持ちになるんだって、暁人と二人で生きていくようになって分かった。

「暁人、あーん」
「・・・あーん」

ようやく口をあけてくれたので、ようやく暁人にミニトマトを食べさせられた。

「美味しい?」
「ああ、うまい」

照れを誤魔化すように口元を指でぬぐいながら暁人はそう言ってくれた。

「育てるのって楽しいね」

野菜を育てるのと、子育ては全然違うとは分かっているけど。
いつか私と暁人の間に、新しい命が宿ったら。
私は家族になれるかもしれない。
暁人となら、家族になれるのかもしれない。
そんな事を思いながら、採れ立てのミニトマトを眺めた。

 

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