Only Love(夏深)

自分の手の届く全てのものを守りたい。
私にはそれが出来る。
だから私は自分の足で力強く立つ。
後ろにいる誰かを守るために。

 

 

「深琴」

名前を呼ばれて振り返ると部屋の入り口には夏彦がいた。
久しぶりに髪を結おうとするとさらりと髪がこぼれて、なかなかうまくいかない。
白と黄色の二色のリボンを手にしつつ格闘していた姿をもしかして見られていたのかと思うと恥ずかしくなる。

「どうしたの?夏彦」
「いや、呼びたくなっただけだ」

そう言って、夏彦は部屋に入ることなくそのまま立ち去った。
通りがかっただけだったんだろうか?
名前を呼ばれるだけでときめくなんて事、今まで知らなかった。
初恋はいつかと尋ねられれば、いつだったろうと首をかしげる。
異性と関わることなんてほとんどなかったし、年の近い異性なんて舟に乗ってから知り合ったものばかりだ。
だから、恋なんて知らなかった。
夏彦と出会って、初めて知った感情。
誰かを愛おしいと、傍にいたいと願うことを知った。
義務じゃない、責務じゃない。
ただただ私の望み。
夏彦と一緒にいたい-
初めて、自分のためだけに願った。

 

「よし」

ようやく髪を結い上げ終わると、夏彦が再び部屋の入り口にいた。

「どうしたの、夏彦」
「いや、お前の顔が見たくなっただけだ」「部屋には入らないの?」

いつもよりぼんやりとした顔をしている。
夕べも遅くまで作業をしていたし、きっと疲れているのだろう。立ち上がって、夏彦の傍までいくと彼の手をとった。
少しひんやりとした手。
そのまま有無を言わさず、私は彼をベッドに座らせた。
私も夏彦の隣に座り、夏彦の反応を待たずに彼の頭を私の膝の上に乗せてやる。
目の下が少し赤くなった夏彦を見て、私は笑みを零した。
甘やかすように彼の頭をゆっくりとなでてやると心地よいのか、夏彦は目を閉じた。
夏彦の髪って、私よりもさらさらしている気がする。
もう少し手入れ頑張らないと。

「夏彦、お疲れ様」
「ああ、ありがとう」

 

この部屋にいるのは、誰かを守るための使命を背負った少女じゃない。
ただ、ひとりの人を愛した私だ。

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