「うーん、そっかぁ」
本棚の片隅にあった小さなその本を黙々と読んでいると、緋影くんが部屋から出てきた。
「こんな時間まで何をしてるんだ?」
「あ、緋影くん。この本を読んでいたの」
読んでいた本の表紙を彼に見えるようにすると、眉間に皺を寄せて題名を口にした。
「誕生日占い・・・だと?」
「うん、読んでると面白いよー。不思議だよね、生まれた日付からその人のことが分かるだなんて」
「ふん、くだらないな」
緋影くんはそのまま私が座るソファーを通り過ぎ、キッチンへ行ってしまった。
確かに男の子は占いとか興味ないかもしれない。
だけど、生まれた日からどんな人か分かるなんて面白いし、それこそ誕生日から運命の相手とか分かっちゃうのかもしれない。
乙女心としては、そういうのが楽しいのだ。
「まったく・・・自分の誕生日も分からないのに、そんなもの読んで何が楽しいんだ」
緋影くんは私の前にカップを置いてくれた。
覗き込むとそこにはホットミルクがあった。
「あ、ありがとう」
「それを飲んだら早く休むことだね」
「うん、そうしようかな」
本を閉じて、テーブルの上に置くと代わりに緋影くんが用意してくれたホットミルクを口へ運ぶ。
少し砂糖をいれてくれたんだろう。ほんのり甘くて優しい気持ちになる。
「美味しい」
「・・・そうか」
「ありがとう、緋影くん」
「・・・ああ、」
緋影くんに向かって笑うと、彼はさっきみたいに眉間に皺を寄せて私から視線をそらした。
もしかしたら照れるのかもしれない。
「緋影くんって照れ屋だったり・・・」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
あまり余計なことを言って機嫌を損ねて、部屋に戻ってしまったら寂しい。
咄嗟に誤魔化すと、さっきの本の話題にすりかえた。
「ねえ、緋影くんは何月生まれなんだろうね」
「え?」
「案外夏とかかなぁ?太陽とか似合いそうな気もするし・・・」
「・・・さあ、いつだろう」
「後は・・・なんだろう。凄く空気が澄んでる時とかかなぁ?」
「どうしてそう思うんだ?」
「私のなかの緋影くんのイメージ、かな」
澄んだ世界が似合うな、とも思うし茹だるような暑い夏の日に生れ落ちるというのも案外似合いそう。
そんな風に想像するだけで楽しくなってくる。
「答えなんて分からないのに、楽しいのか?」
「うん、楽しいよ。緋影くんについて色々と考えるの」
「そうか・・・」
「思い出したら、教えてね」
「・・・ああ、そのときは君に一番に教えるよ」
「・・・うん!」
なんでもない夜の日の、ちょっとだけ特別な出来事。
私はこの日のことを、いつかふと思い出すんだろう。
そのとき、緋影くんは私の傍にいてくれるんだろうか。
これは、まだ何も分からない頃の私の想い。