結末はおなじ(宗次×琴子)

この恋を失うくらいなら、この喉をかっさばいても構わない

 

 

 

久しぶりに級友とお茶をして過ごした帰り道。
あまり遅くなると嶽屋が心配する。
それが分かっていたから早めに解散したというのに。
私はなぜか一人、広場に立ち寄っていた。

(・・・ここは風が心地よい)

目を閉じて、頬をなでる風を感じる。
今まで風というものを意識したことはほとんどなかったと思う。
嶽屋に出会ってからだ。
彼という存在を知り、惹かれていった時に初めて意識した。
風に吹かれると心地よくて、これは嶽屋が起こした風かもしれないなんて考えてはくすりと笑う。
そう・・・幸せなんだ。
父が決めたヒトと結婚して、華族としての地位をもっと堅実なものにする。
そう思って生きてきたのに、人生というのは分からない。ぐるりと世界は反転したようだった。
嶽屋に恋をした。
それは幸福なことだとおもう。
主として、鬼として惹かれあっただけじゃない。
だけど、

(私と宗次さんはいつまでお似合いに見えるんだろうか)

今はお似合いの二人に見えるだろう。
十年後、二十年後・・・
私は年老いていくが、嶽屋はきっと今の姿のままかもしれない。
いや、すこしは大人になるのかもしれないけどきっとお似合いね、とは言われなくなる。
そんなこと、分かっていたのに。
左手にある証に触れる。
嶽屋を縛る証。

ふと、やわらかい風が私を包んだ。

「・・・宗次さん」
「こんなところで何をしてるんだ?」

ゆっくり振り向くと、少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せた嶽屋が立っていた。
その表情になんだか少し安堵した。

「寄り道です」
「・・・俺はあんたが帰って来るの待っていたのに」
「あら、約束の時間にはまだ早いでしょう?」
「そうだけど」

つかつかと寄ってきて、嶽屋は私をきつく抱き締めた。
大人しく背中に手を回し、抱き締め返す。
この人が好きだ、大好きだ。

「宗次さんはどんなおじいちゃんになるんでしょうね」
「・・・どうした?」
「私はあなたのそういう姿が見れないんだな、と考えたら少しだけ寂しくなりました」

少し、じゃない。
嶽屋の全てを知りたい、てにいれたい。
未来さえも、欲しいのだ。
私がいなくなった後の彼を知る術がないのが苦しい。
寂しがりやなあなたをいつか一人にすることがたまらなく悲しい時がある。

「なぁ」
「・・・はい」
「俺はあんたが最期の時幸せそうに笑ってくれたら、その後ひとりでもさみしくない」
「・・・うそつき」

私が傍にいないだけで、不機嫌になるのに。
四六時中一緒にいたいんだといったくせに。
いつの間にか目尻に浮かんだ涙を嶽屋は優しく拭ってくれた。
その表情はとても穏やかだった。

「男の意地があるんだ、俺にだって」

さみしくないわけないだろう、と笑った。
いつかの未来を恐れるなんて馬鹿だとおもう。
大切なのは今だ。

頬をなでる嶽屋の手が先ほどの風のように優しい。
嶽屋の手を握ると、私はようやく微笑んだ。

「少し散歩して帰りませんか?」

嶽屋を残して逝く未来しか待っていなくても。
それでも私はこの人の手を離す気なんてないのだ。

嶽屋は返事のかわりに私の手を握り返した。

 

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