ぎゅっ(カズアイ)

「カズヤくん、寝てばっかりでいいの?」
「んー、アイが気持ち良いからいいよ」

意識を取り戻したばかりの頃は、すっかり衰えてしまった筋肉を取り戻すためにもリハビリを一生懸命していた。
その甲斐あって、今は定期健診のとき以外病院のお世話になることがなくなったカズヤくんなんだけど・・・
学校帰りや休みの日、私の家にいるか、公園でふたりで日向ぼっこをするか・・・
たまにお買い物にいったりもするけど、基本的にゆったりとした時間を過ごしている。
そして、家にいる時は大体私にもたれかかって眠ってばかりいる。

「アイ、もしかして退屈?」
「ううん、退屈じゃないよ」

私は私で本を読んだり、編み物をしたり・・・と色々としているし、カズヤくんの体温が心地よくて安心できるから退屈するなんてことはない。

「でも、カズヤくん。やりたいこととかないの?」

眠ってばかりで勿体無いんじゃないかな、と心配してしまう。

「・・・じゃあ、アイ。ちょっとどいて」

少し考えるとカズヤくんは立ち上がった。
言われるまま場所を少し移動すると、カズヤくんは私が座っていた場所に座ると、ぽんぽんと足の間を叩いた。

「アイ、ここに座って」
「え、えーと・・・」「アイ」
「・・・う、うん」

カズヤくんの言葉少ないけども絶大な威圧感に負けて、私はおずおずと指定された場所に座った。
後ろから手が回されて、まるでカズヤくんを座椅子にしたみたいに寄りかかってしまう。
回された腕と背中のぬくもりが、強烈にカズヤくんを意識させる。
いつも伝わる体温が心地よいな、と安心していたけど・・・これは、安心じゃなくてドキドキしてしまう。

「アイ、緊張してる?」
「そんなこと・・・!」
「だって肩に力はいってる」
「ひゃっ」

私の肩にあごをのせると、くすっとカズヤくんが笑った。

「俺、アイとこうやって一緒に本よみたい」
「そうやってて、読める?」
「うん、がんばる」
「もう・・・」

カズヤくんも読めるようにいつもより少し高い位置に本を持ち上げた。
しばらく二人でそうやって本を読んでいると、まだドキドキはおさまらないけど、いつものカズヤくんの体温に少し慣れてきた。

「あ、アイ」
「なに?カズヤくん」

不意に呼ばれ、振り向こうと顔を向けると思いのほかすぐ近くにカズヤくんの顔。
驚いて、距離を取ろうとするけどカズヤくんの方が行動に移すのがはやかった。
唇と唇が触れ合った。

「・・・っ、カズヤくん」
「アイのここ、やわらかい」

ついさっき触れ合った私の唇を指でなぞると、綺麗な笑みを浮かべた。

「・・・もう」

なんといっていいのか分からないし、恥ずかしくて頬が熱い。
唇をなぞっていた指が、私の頬をなでる。

「もう一回してもいい?」
「・・・うん」

了承を得て、また嬉しそうに微笑むカズヤくんを見た後、そっと目を閉じた。
手に持っていた本が、ばさりと落ちる音がしたけど拾うのはもう少し先になりそうです。

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