※オリジナルキャラとして二人の子どもが出てきます。苦手なかたは閲覧をご遠慮ください※
「お母さん、お母さん」
「どうしたの?ヴィオレッタ」
夕食も済み、子どもたちの入浴も終わったので、髪を拭いてあげているとヴィオレッタが振り返って私を見上げた。
ヴィルヘルムと同じ紫色の瞳。
自分の面影と、ヴィルヘルムだと分かる名残がある娘の姿はこの世に私たちが残した愛の証・・・というとちょっと恥ずかしいけどかげかえのない宝物だ。
「アサカちゃんはこんどいつくるの?」
「え、アサカ?」
「うんっ!」
以前、ヴィルヘルムの忘れ物を届けてくれたアサカに会って以来ヴィオレッタは彼が大好きなようだ。
アサカのさらさらの髪がすてき!とか、わらった顔がきれいだとか褒めちぎる。
ヴィルヘルムのほうをちらりと見ると、愛娘の口から出るアサカという単語が面白くないようで眉間に皺がよっていた。
「そうねぇ・・・お父さんに聞いてみたら?
お父さんなら毎日職場で会ってるから」
「うんっ!」
髪を拭き終わると、ヴィオレッタはありがとうと笑ってヴィルヘルムの元へかけていった。
「母ちゃん、なんでヴィオレッタはアサカアサカっていうんだ?」
「うーん、なんでだろうねぇ」
今度はロニの番。
私の膝の上に座って、髪を拭かれていると不思議そうにさっきのヴィオレッタのことを口にする。
まだロニの初恋は遠いのかな。
男の子は、小さな恋人だっていうけどヴィルヘルムによく似た愛息子がどんな女の子を好きになるのかな、と考えるのは少し楽しい。
「お父さん、アサカちゃんはこんどいつくるのー?」
「・・・ヴィオレッタ」
満面の笑みでやってきたヴィオレッタを膝の上に乗せると、一回深呼吸する。
ヴィオレッタは不思議そうに小首をかしげた。
「なぁに?」
「おまえ・・・アサカがすきなのか?」
「うん、アサカちゃんすきっ!」
「そ、そうか・・・」
そうだろうと思っていた。
思っていたし、相手はアサカだ。
どうなることもないし、アサカだ。大丈夫だ。
アサカだということを何度も何度も言い聞かせるが、正直なんともいえない気持ちになる。
「だってアサカちゃんはお父さんとまいにちいっしょにいるんでしょ?
だからヴィオレッタ、アサカちゃんになりたいっ」
「・・・え?」
「ヴィオレッタ、お父さんがいちばんすきよ!」
「ヴィオレッタ・・・」
ぐっときた。
娘というものはなんでこんなに可愛いんだろうか。
誤魔化しきれない喜びを、見せないように咳払いをしてからヴィオレッタの頭をなでてやる。
「父ちゃん、ヴィオレッタと一緒にいる時間もっと頑張って増やすからな」
「うん!」
ぎゅうっと抱き締めると、ロニを膝の上に乗せたランがくすりと笑っていた。