「ランってあんまりヤキモチ妬かなそうだよね」
「そうかなぁ」
食堂でランチを食べていたときのこと。
ユリアナにユアンさんへの愚痴というかのろけを聞かされていた。
話題が一段落つくと、ユリアナはそんな事を口にした。
「まぁ、相手はヴィルヘルムだしね。
ラン以外眼中になさそうだから心配はないか」
「そんな事はないけど・・・
でも、あんまりヤキモチとかはないかも」
ヴィルヘルムのことを思い返してみても、男の子とばかりいるからなんともいえない。
そもそもニルヴァーナは女生徒の数が少ないから自然とそうなるんだろう。
「あ、噂をすれば」
ユリアナが食堂の入り口を指差したので、それにしたがって私も入り口をみる。
ちょうどヴィルヘルムが入ってきたところだ。
「ヴィ・・・」
ヴィルヘルム・・・と名前を呼ぼうとして、私の動きは止まった。
突然女生徒が走ってきて、ヴィルヘルムに何かを渡した。
不思議そうな顔をしながらも受け取り、いくつか言葉をかわしたようだ。
「ラン?」
「・・・」
「ラン、きこえてる?」
「え、なに?」
「いや、あんた・・・珍しく顔が怖いよ」
「え、そうかな」
誤魔化すように笑うが、ユリアナは苦笑いだ。
「ラン、ここにいたのか」
肩をぽんと叩かれるが、振り返るのが嫌だ。
私の返答なんて待たずにヴィルヘルムは私の隣の席に座った。
「今さ、そこで」
「私、用事思い出したから先行くね。ユリアナ」
「あ、うん」
「え、おい。ラン!」
ヴィルヘルムを無視し、早足で食堂を出るがすぐさま追いかけてきたヴィルヘルムに追いつかれる。
「ラン、どうしたんだよ」
返事をしないまま歩く。
ヴィルヘルムは小さく舌打ちすると、私の肩を掴んだ。
「おい、ラン!」
「・・・っ、」
無理やり振り向かされて、私は少し苛立った。
振りほどこうとして、ヴィルヘルムの手を払おうとするが強く掴まれてそれも出来ない。
「何怒ってんだよ」
「怒ってなんか」
「嘘つくな」「嘘なんかついてないもの。
それよりそんなに強く掴まれたら痛い」
「あ、悪ぃ」
手が緩むと、私はそれを振り払い再び歩き始めた。
「ラン!」
「だから怒ってな・・・」
強く呼ばれ、振り返るとヴィルヘルムの表情を見て息を飲んだ。
苛立った顔をしてるのかと思ったら、悲しそうな顔をしていた。
「さっきの子に慰めてもらえばいいじゃない」
「はぁ?」
傷つけた。
だけど、素直な言葉が出てこない。
私はヴィルヘルムから逃げようと背を向けた。
「俺が惚れてるのは、お前だけだって言ってんだろ!」
「-っ」
逃げようとしてた足が止まる。
「だからラン、ちゃんと言ってくれよ。
おまえが何に怒ってんのか、わかんねぇよ」
ぎゅっと後ろから抱き締められる。
顔は見えないけど、切迫した声が、全てを物語ってるみたい。
「・・・もう一回いって」
「ん?」
「聞こえなかったもの・・・もう一回言ってほしい」
「・・・聞こえてただろ」
「聞こえなかった」
「おまえ、怒ってないだろ」
「私は怒ってないって言ってたもの」
「・・・ったく」
抱き締める腕が、強くなる。
耳元に寄せられた唇を感じる。
「おまえが、好きだ」
「・・・うん、わたしも」
ヴィルヘルムに抱き締められて、思いがけない言葉を聞けたおかげで、さっきまでの苛立ちなんてあっという間に消え去っていた。
「ところでさっき何言いかけてたの?」
「あー、さっき食堂の入り口でおまえのファンだっていう女から手紙受け取った」
ポケットにいれていたせいで少し皺になった手紙を私に差し出す。
「なんだ、私宛か」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
普段妬かない分、こういうことがあるとちょっとだけめんどくさくなっちゃうようだ。
誤魔化すように笑うと、ヴィルヘルムは私の頭をくしゃりとなでた。