鏡越し(セラアリ)

幼い頃、セラスが私の髪を結ってくれることが嬉しかった。
本当はセラスの役割じゃないのに幼い私はセラスといつだって一緒にいたかった。
朝目を覚まして、ミニドラゴン姿のセラスにかみついたり、人間の姿になったセラスに起こされたり・・・と朝もセラスと始まって
夜も寝るときはミニドラゴン姿のセラスと眠る。

「ご主人様、あまり暴れないでくれ」
「だってセラス、下手なんだもの!」
「・・・これからご主人様が満足するようにできるように努力しよう」
「うん!がんばって!」

今思えばセラスはああいうこと、というか人間に何かをするなんて初めてなんだから仕方がなかっただろうに。
でも、今は私の髪を散髪できるくらいになってしまったけど。

 

 

「セラス、少し髪整えてほしいんだけど」
「もう伸ばさないんですか、ご主人様」
「うーん、短いとラクなのよね」

絵の具がつく心配もないし、というとセラスははぁ・・・とため息をついた。

「こちらに掛けててください」
「うん」

鏡台の前に座ると、セラスが薄い布を私の胸元にかける。
それから用意してあったはさみを取り出して、髪に触れた。真剣な顔をして、私の髪と格闘するセラスを鏡越しに見つめる。
出会った頃からセラスは変わらない。
・・・当たり前のことだ。
彼の本来の姿は、今の人間の姿でも愛らしいミニドラゴンの姿でもない。
私なんて踏み潰せるくらい大きなドラゴンなのだ。
出会ったころの私はクソガキだった。
身体もずっと小さかったし、心も幼かった。
今は・・・大人の女に成長しただろう。
年の離れた兄妹くらいにしか見えなかった私たちは、今や恋人に見えるようになった。

(・・・あと何年そうしていられるんだろう)

実年齢はずっとずっと上だ。
自然な姿で隣にいられるのは、10年、20年程度か。
鏡に映るセラスから目をそらすように私は目を閉じた。
30年、40年経ったころ、私はおばあちゃんになっていく。
おばあちゃんの私の隣に立つセラスを思い浮かべる。
・・・幸せそうじゃないかしら。
そしてきっと私も、幸せだ。
だって、セラスが隣にいるんだもの。

(隣にセラスがいない未来なんて、想像できないわ)

目を開くと、髪を整え終わったセラスが私から布を外した。

「どうですか、ご主人様」
「うん、いいわ」

綺麗に整えられた髪。
嬉しそうに笑うセラス。

「セラス」
「はい、なんでしょう。ご主人様」
「ご主人様じゃないでしょ」
「・・・ア、アリシア」

名前で呼ぶことに慣れないセラス。
私としては、ベッドの中以外でも呼ぶ努力をしてほしい。

「キスして」
「はい・・・」

優しく触れたそれに、初めてのキスを思い出す。
ほだされたわけじゃない。流されたわけじゃない。
気付かないふりをしつづけた恋心を、自覚させられただけ。同じように時は刻めないけれど、私はセラスがこの腕のなかに残ればなんだっていいの。
そう言ってもきっとこのドラゴンは意味を理解してくれないだろうから、言葉にしない代わりにぎゅっと抱き締めた。

 

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