優しくありたい(暁七)

「ふぅ・・・」

時計を見ると、確認してから2時間くらい経っていた。
両手を組んで、前のほうにぐっと伸ばす。

「順調か?」
「暁人」

テーブルに湯のみとお茶菓子を置いてくれる。
今日は暁人がお休みの日だけど、毎日勉強するようにしている日課を大事にしろと言ってくれたのでいつも通りの時間に勉強をしていた。

「ありがとう」
「おまえの集中力、すごいな」
「・・・そう?」
「ああ、だっていつもなら俺が台所でなんか作ってたら寄って来るだろ?」
「それは・・・暁人が作るものが美味しいから」
「ん」

くしゃりと私の頭をなでると、暁人は優しく笑った。

「暁人、それ食べてもいい?」

暁人が用意してくれたお茶菓子は見たことのないものだった。
どんな味がするんだろうと想像するだけでわくわくする。
許可を求めて暁人を見つめると、暁人は少し頬を赤らめた。

「ああ、食べてくれ」
「いただきます」

半透明なかたまりに黒蜜ときなこがかかっているそれに楊枝を挿すと、そのまま口に入れる。
噛むと弾力がしっかりとあるのに、黒蜜ときなこが存分に甘味を与えてくれている。
なんといえばいいのか分からないけど

「すごく美味しい」
「そうか・・・!」
「うん、甘くてすごく美味しい!」
「お前、頭つかってるだろ」

次の一口を口に運ぶと、暁人はさっきよりも優しく私の頭をなでる。
よしよし、と子どもを甘やかすような仕草だ。
・・・私は、あまりそういうことをされたことはないけれど街でお母さんが子どもにしてあげているのを見たことがある。
そういう穏やかさを、暁人から感じる。

「頑張って勉強してたご褒美だ」
「ありがとう、暁人」

褒めてくれたり、ご褒美をくれたり、何かいけないことをしたら叱ったり、心配してくれたり。
暁人は今まで私が経験したことのないものを与えてくれる。
私は暁人に普通の愛情を返せていないんだろう。
普通、というものが分からない。だけど、暁人がこうやって優しくしてくれるように私も暁人に優しくありたい。

「暁人、はい」

最後の一口を楊枝に挿すと、暁人の口元へ運んだ。

「お、おい・・・!」
「はい、暁人」
「・・・あのなぁ」
「暁人」
「・・・」

何か言いたそうに眉間に皺を寄せるが、引かない私に暁人が折れた。
しょうがなさそうに口を開くと、私はそこに最後の一口を入れた。

「美味しい?」
「・・・ああ、もう少し弾力控えてもいいかもな」
「でも、美味しい」
「そうか」
「これ、なんていうの?」
「葛餅っていうんだ。ほら、昔桜餅つくっただろう?」
「うん、可愛かった」
「あれからちょっと、和菓子も良いなってちょっとずつ勉強してるんだ」

暁人は暁人で頑張っている。
私も私で頑張っている。
私は暁人の頭に手を伸ばすと、さっき暁人がしてくれたように頭をなでた。

「・・・っ」
「暁人はえらい」
「・・・ありがとな」
「うん」

暁人は目を閉じると、そのまま私に頭をなでられ続けた。

 

二人でいられる喜びと、二人が寄り添える距離。
優しくされたいし、優しくしたい。
暁人がいるから知れたこと。
このぬくもりが、いつまでも傍にありますように。

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