貴方はもういない(小ヴィル←ニケラン)

ニケ√後のお話。

 

 

 

 

いつもよりはやく目が覚めた。
まだ薄暗い外を見つめると、ここに来たのがつい最近のように思えた。
ニケと一緒に外の世界を知り、そうして二人で暮らし始めた。
はじめの頃は慣れないことも多くて、二人であくせくとした日々を送っていたけれど
ようやく落ち着いてきた今では、その日々さえも懐かしく感じた。

(・・・ヴィルヘルム)

名前を呼ぶ。

(・・・ヴィルヘルム、ヴィルヘルム)

ただ、何度も名前を呼ぶ。
いないと分かっているけれど、呼ばずにはいられなかった。
私を救ってくれたヒト。
私を、傷つけたヒト。

 

 

「ラン、どうしたの?」
「ごめんなさい、起こしちゃった?」

不意に後ろから優しく抱き締められる。
ニケの体温は私より少し低い。
その腕のなかは酷く心地よくて、甘えるようにその腕に触れた。

「まだ起きるには早いよ、寝よう」
「うん、そうだね」

二人でベッドに再びもぐりこむと、ニケは私を抱き締めたまま目を閉じた。
私も同じように目を閉じる。

 

怖くて怖くて仕方がなかった。
魔剣にとらわれてしまった私と、その魔剣であるヴィルヘルム。
怖かったのに。
呼びかけても必ず応えてくれたわけじゃない。
どうしてだろう。
ヴィルヘルムと一緒にいた日々は、温かかった。
優しいことばかりじゃなかった。
泣きたいことも、逃げ出したいこともあったけど、ひとりじゃなかったから。

 

(ヴィルヘルム・・・)

最期の別れのときの彼の涙が忘れられない。
目を開き、私の傍にいるニケの顔を見つめる。
私は、ニケを選んだんだもの。
ニケとの生活は穏やかで、幸せだ。

(ヴィルヘルム・・・)

 

ただ。
ただ、もう一度あなたに会いたかった。

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