おやすみのキスをして(ヴィッダー×リーザ)

私の村で生活するようになって数ヶ月経った。
来たばかりの頃は住む場所もなくて、私の家に一緒に住んでいたけれど落ち着いたら一人暮らしをすると言っていたヴィッダーだけど・・・
夕食はしょっちゅう私の家に食べに来るのが習慣になってしまったようだ。
お母さんはヴィッダーを私の恋人と勘違いしているらしく、気にしないでいいと笑っている。

「ヴィッダーってあんまりお酒呑まないわよね」
「んー、まぁたしなむ程度には呑むけど」
「ふーん」

夕食も入浴も済ませ、もう寝るだけ。
お母さんはもう自室に戻っていた。
リビングで私たちはホットミルクを飲んでいた。
夜だというのに、色気がないなぁと思ってつい口に出た言葉だった。

「何?あんた、呑みたいの?」
「いや、私はいらないけど」
「けど?」
「ホットミルクだなんて色気がないじゃない」

口に広がる甘ったるい味。
甘いものは疲れにきくという言葉を信じて、砂糖を多く入れすぎてしまう。
一口飲むと、ヴィッダーが私を見つめていた。
村の夜は早い。
きっと今、外に出たとしても明かりがついている家はほとんどないだろう。
私たちだって明日も朝から畑仕事があるんだから早く寝ればいいのに。
こうやって夜、一緒に過ごす時間が実は結構好きなのだ。

「眠れないっていうジュールにホットミルク飲ませたこともあったなぁ」
「ヴィッダーが用意してあげて?」
「あぁ。それで飲んでる最中に眠るからホットミルクが零れて床がびしゃびしゃになるわで災難だったな」「ふふ」

その光景が想像ついて思わず笑ってしまう。

「そういえばさ、最近寝付き悪いんだよなぁ。俺」
「え、そうなの?」

そんな風には見えないから驚いてしまった。
くすりと笑うと、ヴィッダーの手が私の頬をなぞる。

「そう。だからさ、俺にもしてくれない?」
「・・・なにを?」
「あんたが、ジュールにしてやったこと」

頬をなでていた指が私の唇をなぞる。
ぞくり、と肌が粟立つ。

「何言ってるのよ」
「なぁ、駄目?」
「駄目に決まってるじゃない。キスは恋人同士がするものでしょう」

こう見えても恋に夢見る乙女だ。
ジュールとのキスは・・・なんというか、まぁ事故だったのだ。
それに生命の危機もあったんだから仕方がない。

「ふーん」

指が私から離れると、残っていたホットミルクを飲み干してヴィッダーは席を立った。

「ご馳走様」
「・・・帰るの?」
「うん、もう遅いしな」

ヴィッダーの背中を追うように私も玄関まで移動する。
ドアノブに手をかけ、ヴィッダーが振り返った。

「それじゃあまた明日」
「ええ、また明日」「あ」

何かを思い出したようにヴィッダーが立ち止まる。
ドアから手を離すと自然な動作で私を引き寄せて唇を重ねた。

「・・・っ!?」

驚いて瞬きさえ出来ない。
唇が離れると、ヴィッダーはにやりと笑った。

「おやすみ、いい夢見れそうだ」
「なっ・・・!!」

逃げるように家を後にするヴィッダーの背中を追うことも出来ず、私は玄関で立ち尽くした。
ああ、もう・・・

「・・・キスは恋人同士がするものだって言ったじゃない」

私たちは、恋人同士じゃないのに。
恋人とする前に恋人じゃない異性とのキスの回数ばかり増えていく。
乙女として、それはどうなんだろうかとため息をつきながらもヴィッダーからのキスが嫌ではない自分に驚きながら唇をそっとなぞった。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (7)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA