お留守番(ヴィルラン+子ども)

「本当に大丈夫?」
「あー、そんなに心配すんなって。
ヴィオレッタだって大丈夫だって言ってただろ?」

出掛けるぎりぎりまで心配そうな顔のままだ。
今日は久しぶりにユリアナたちと会う約束は前からしていたんだ。
風邪が治りきらないヴィオレッタを残して出掛けることが心配らしく、行くのをやめようか散々悩んでいた。
そんなに俺が信用なんねぇのか、と言うとようやく出掛ける決心がついた・・・のに、また心配そうな顔になった。

「うん、そうだけど・・・。夕方には戻るから」
「ん。ユリアナによろしくな」
「うん、分かった。ロニ、行こう」
「ヴィルヘルム!母ちゃんのことはまかせとけっ!」
「あー、母ちゃんのこと頼んだぞ」

頭をぽんぽんとなでると、俺に見せ付けるようにランの手を握った。
二人が出掛けていく姿を見送るとリビングに戻った。

「ヴィオレッタ、大丈夫か?」
「うん、だいじょうぶ」

リビングのソファで、毛布を頭から被ったヴィオレッタの横に座る。
甘えるように俺の膝に顔を乗せてくるので、毛布の上から頭をなでてやる。
普段から甘えたがりだけど、やっぱり病み上がりだからだろう。
いつもよりべたべたとくっついてくる。

「えへへ、お父さんとおるすばんだね」
「ちゃんといい子にしてないと母ちゃんが心配するんだからな」
「うん!ヴィオレッタ、良い子にしてる!」
「うし、えらいぞ」

昼になったらご飯を食べさせて薬を飲ませること。
出来る限り安静にさせること。
ランに何度も何度も言われたから頭にばっちり入ってる。

「お父さん」
「ん?どうした?」
「お父さん、絵本よんでほしいの」
「あー、いいぞ」
「やったぁ!じゃあもってくる!」
「いや、父ちゃんが取ってくる。何が読みたいんだ?」
「んーとねー、シンデレラ!」
「りょーかい」

ヴィオレッタをどかし、子どもたちの部屋に絵本をとりにいく。
何冊かある本のなかから目当ての本を見つけて手に取った。
俺が小さい頃、本なんて読んだかどうか定かじゃない。
自分の昔の経験なんて子育てのどこにも役立たないということは子どもたちが生まれる前から分かっていた。
それがランの負担になるんじゃないかと少し考えたこともあったが、考えるだけ無駄からやめた。
俺がしてやりたいように子どもたちには接すると決めたし、ランもそれが良いと頷いた。

「これか?」
「うん、それー!」

本をヴィオレッタに見せると嬉しそうに頷いた。
ソファにもう一度座り、膝の上に毛布ごとヴィオレッタを乗せる。
それから本を開いて読み始めた。

 

 

継母やら義理のねーさんにいじめられたシンデレラが魔法使いの手によって舞踏会にいって王子様に出会うっていう話だ。
これのどこが面白いんだか全くわからないが、読んでいる間ヴィオレッタは楽しそうに聞いていた。

「シンデレラは王子様と幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし」
「めでたしー!」

 本を閉じ、ヴィオレッタの額に触れる。
少し熱い気もするが、子どもの平熱は俺やランよりも高いらしい。
許容範囲だろう。
時計を見ると、昼過ぎだった。

「はら減ったか?」
「うん!」
「じゃあ母ちゃんが作ってくれた飯、食うか」
「うん!」

面倒なので、ヴィオレッタを抱えたままキッチンにランが用意してくれてある昼食をとりにいく。
食べやすいように、とサンドイッチとスープだ。
コンロの火をつけてスープを温めつつ、サンドイッチとヴィオレッタをリビングに運ぶ。
しばらくして温まったスープを器によそい、ヴィオレッタのもとに運ぶ。
向かい合わせに座り、いただきますと二人で手を合わせた。

「ねえ、お父さん」
「んー」
「お父さんとふたりっきりってわくわくするね!」
「ん?そうか?」
「うん!ヴィオレッタ、うれしい!」

サンドイッチを頬張りながら、ヴィオレッタは笑った。
あー、やっぱりランの娘だな。
そういう表情が、すっげー似てる。
口元についたマヨネーズをとってやると、また嬉しそうに笑った。

 

食べ終わって薬を飲んで少しすると、眠そうにうとうととし始めた。

「ちょっと寝るか?」
「んー・・・」

頭をくしゃりとなでてやると、こくりと頷いた。
抱きかかえて子どもたちの寝室に運び、ベッドに寝かせると俺の服をぎゅっと握った。

「おとうさんも、いっしょに寝よ?」
「ああ、いいよ」

ヴィオレッタの隣に入り、頭を出来る限り優しくなでる。

「ヴィオレッタ、お母さんみたいになりたいの」
「ランみたいに?」
「お母さんの髪、すっごくきれいなのに。ヴィオレッタの髪、かわいくないの」「んーそうか?俺は可愛いと思うぞ」

くしゃくしゃとすると、疑いのまなざし。
あー、たまにランもそういう顔するする。

「ヴィオレッタはランの娘なんだから将来綺麗になるぞ。だから大丈夫だ」
「・・・ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「えへへ、よかった。
じゃあ、アサカちゃんも・・・」
「ん?アサカ?」

どういう意味だ、とヴィオレッタに尋ねようと顔を見ればもう夢の世界だ。
すやすやと気持ち良さそうに眠り始めた。

「・・・アサカってどういうことだ」

腑に落ちない気持ちになりながら、ヴィオレッタの寝顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」
「ただいま!ヴィオレッタ!帰ったぞ~!」

15時過ぎ。
やっぱり心配で予定より早めに家に戻ると、リビングには二人の姿がなかった。
ロニもヴィオレッタが心配だったようでばたばたとリビングに駆けていくが、二人の姿がなくて首をかしげる。
もしかして、と思い子どもたちの部屋へ行くと二人の姿はあった。

「ヴィ・・・」
「ロニ、二人とも寝てるみたいだから静かにしよう」
「・・・うん」

おだやかに眠る二人の姿を見て、幸せな気持ちになりながらドアを閉じた。

 

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