看病(寅撫)

勝手知ったる他人の家とはこの事だ。
私は今、トラの家の台所にひとりで立っている。
鍋の火を弱火にして、お玉でかきまぜる。
お菓子作りは好きでよくクッキーを焼いたりするけれど、あまりおかゆなんて作ったことがないから少し心配だ。
だけど、珍しく熱を出しているトラのためにと決意を新たに溶いた卵を流し込んだ。

 

 

 

部屋に入ると、音に気付いたんだろう。トラがうっすらと目を開けた。

「具合、どう?」
「んなもん、大丈夫だよ」

起き上がろうとするトラのすぐ傍に膝をつき、おかゆが乗ったお盆を傍らに置く。
トラの背中にそっと触れると、まだ身体は熱い。

「おかゆ作ったんだけど、少しは食べられそう?」
「あぁ、食う」

身体を起こすのも辛そうだけど、少しでも食べて薬を飲まないことには熱も下がらないだろう。
器によそって、トラに渡そうとすると熱で潤んだ瞳で私をじっと見つめてきた。

「どうしたの?」
「オレ、病人だしよ。食わせてよ」
「・・・っ、な!?」
「たまにはいいだろ?」

熱があろうとトラはトラだ。
困る私を見て、楽しそうに笑う。
トラに渡そうとした器は私の手の中だ。
病人なんだから仕方がない・・・私は意を決しておかゆを一口分すくった。

「・・・はい、トラ。あーん」
「・・・っ」

自分から言い出したくせに。
まさか私がやると思わなかったんだろう。
トラの頬がさっきより赤くなった気がした。多分それは熱のせいだけじゃない。

「ほら、はやく」

口元までレンゲを運ぶとトラはようやく口を開いた。
ひな鳥に餌を与えるような気持ちになりながら、トラの口におかゆを運んでいく。

「・・・うまいな」
「本当?良かった」

トラはそれ以降何も言わないで黙々と食べ続けた。
おかゆを食べ終わり、薬を飲むともう一度横になる。
トラの額に触れるとやっぱりまだ熱い。
濡れタオルでも用意した方が良さそうだ。
食器をさげにいくついでに用意をしようと思い、立ち上がろうとすると私の手をトラが掴んだ。

「どうしたの?」
「なぁ、撫子」

トラが触れている部分が熱い。
私を見上げる瞳が、どうしようもなく愛おしい。

「こういうこと、されたことないから分かんねーけど・・・
おまえがいてくれてよかった」

トラのおうちには両親がいない。
年の離れた弟たちと、トラのおじいさん。
風邪で寝込んでも看病というものをされた覚えがないんだろう。
私の腕を握るトラの手に、そっと触れる。

「私はあなたの傍にいるわ、ずっと」
「ん・・・」

薬が効き始めたからか、安心したようにトラはうとうととし始めた。
その様子を見守りながら、私は彼の手を握った。
同い年だけど私よりずっと大人っぽい部分があるトラ。
でも眠る姿を見るとあどけなくて可愛い。

「トラ、はやく良くなってね」

眠るトラの額にそっとキスを落とすと、自分でしたくせに恥ずかしくなって頬が熱くなった。

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