隣にいる夏彦をちらりと見る。
「どうした、深琴」
「ううん、なんでもないわ」
人混みの中。
すれ違う女性が、ちらちらと夏彦を見る。
絡めた指先の熱が私と夏彦を繋いでいるようで安心する。
夏彦は見た目もかっこいいけれど、彼の良いところは見た目じゃなくて内面なのに。
街に出る度にそんな事を思う。
「あ、夏彦。少し待ってて」
「ああ、分かった」
夏彦の手を解くと、目当ての雑貨を見つけ、私はそれを手に持ち会計へと向かった。
いつもすぐ夏彦は買ってくれようとするが、私も自分で買いたい時があるのだ。
そのことを何度か夏彦に説明すると、ようやくこうして私一人で会計に行かせてくれるようになった。
夏彦に贈るものは、夏彦に見られたくないもの。
私は会計を済ませると、その包みを大事に胸に抱くようにして夏彦の元へ戻った。
「・・・」
夏彦の元には何人かの女性がいた。
それを煩わしそうな表情であしらっていた。
一人の女の人の手が、夏彦に触れようとした時だった。
「夏彦・・・っ!」
我慢できなくて夏彦を呼んでいた。
「遅かったな、深琴」
「・・・ごめんなさい」
傍にいた女性たちには目もくれず、夏彦は私の元に来てくれた。
不満げに彼女たちは夏彦を見つめていた。その視線すら嫌な気持ちになる。
「行きましょう、夏彦」
夏彦の腕に手を伸ばして、さっき買った荷物のように大事に胸の方へと引き寄せる。
子どもじみてるな・・・と自分でも思ったけど、我慢できなかった。
夏彦は少し頬を赤らめて、私にされるがままになっていた。
しばらく無言で歩いていたが、再び別の女性が夏彦を見て振り返る。
なんで夏彦ってこんなにかっこいいんだろう。
私はこの人の見た目じゃなくて、内面に惹かれたんだもの。
見た目で判断するような視線が耐え難いのだ。
だからあまり見ないで欲しい。
「夏彦、はげちゃえばいいのに」
「・・・っ!」
ため息交じりでいうと、夏彦は驚いたように私を見つめる。
「み、深琴は髪がない方が好きなのか・・・?」
「あ、ごめんなさい。口に出てた?」
言うつもりなんてなかったのに、声に出てしまっていたようだ。
誤魔化すように笑うと、夏彦が真剣な目をしていた。
「・・・深琴が好きだというなら、髪を・・・剃らないわけでもない」
「あ、違うの。そういうことじゃなくて」
「だったらどうしたんだ?」
「・・・夏彦がかっこいいから」
隠しているつもりだと思うけど、少しだけ嬉しそうに表情が緩む。
そういうところも好きなの。
「色んな女の人が夏彦のこと見てるでしょ?
それがちょっと、嫌だなって・・・」
「深琴・・・」
組んでいる腕をほどくと、夏彦はその手を取って、歩き出した。
少し早足になりながらも人を避けながら歩く。
ようやく家へ帰る道に出ると、夏彦は我慢できないと言わんばかりに私を力強く抱き締めた。
「・・・夏彦!ここ、外よ!」
「ああ、だが俺たち以外誰もいない」
そう、ここは私たちの家に繋がる道だから他の人は滅多に通らない。
息を吸うと、私は夏彦を抱き締め返した。
「俺は深琴以外の女に興味なんてない」
「ええ、知ってるわ」
夏彦はいつだってそう言ってくれるもの。
・・・私も、夏彦以外の異性に興味なんてない。
「でも、ヤキモチくらい妬くわ」
嫌な女と思われたくないけど、言わずにはいられなかった。
「・・・嫌になった?」
「なるわけないだろう」
顔をあげると、夏彦が私の額に自分の額を合わせてきた。
まるで猫が甘えるみたいなその仕草に私は笑みが零れる。いつも恥ずかしいから滅多にしないけど、今日は少し特別。
少しだけ背伸びをして、夏彦に触れるだけのキスをした。
「・・・嫌いになった?」
「いや、」
不意打ちのキスに驚いたのか、あっという間に赤くなった頬を誤魔化すように視線を一瞬他に向けてから私をもう一度見つめた。
「もっと好きになった」