その手を、(セラアリ)

夜中、目が覚めた。
セラスを抱き寄せようとして、ベッドの中をまさぐってその存在がないことを思い出す。

(・・・そうだ、ここはシンフォニアだ)

まさぐる手を止めると、代わりに身体を胎児のように丸めた。
寝付けない、といったセラスを思い出す。
寂しい気持ちも確かにあるんだけど、寂しいだけではない。
足りない、と強く思う。
マイセンだって私の手を離した。
幼い頃はあんなにいつも一緒にいたのに。
気付けばマイセンは私の手を離した。
嫌われたとかそういうのではないし、家族離れだったのかもしれない。
だけど今よりも幼かった私はマイセンが離れていったことを怖く思った。
魔法の使えない私は、いつか誰にも見向きもされなくなるんじゃないかと弱気な気持ちになった。
・・・幼かったんだ、今よりもずっと。
でも、ドラゴンのくせにセラスが私の腕のなかに収まってくれたから。
ぎゅうぎゅうと抱き締めても何も言わないでいてくれたから、私は今こうしているのかもしれない。

(セラスに会いたい、なんて思う日が来るなんて)

今まではそんな事望まなくてもずっと傍にいたのだ。
当たり前の事が、当たり前じゃないんだと自分は知っていたはずなのに。
これ以上余計なことを考えないようにするために、私はきつく目を瞑った。

 

 

 

 

 

「あ、あれ可愛いわね」
「ご主人様、あんまりふらふらしないでくださいよ」
「うるさいわね」

普段は遠くまで買い物に来ることもないのだけど、ある程度大きな街でないと欲しい色が見つからない。
画材を沢山買い込み、大きな袋はセラスが持っている。
あんまり動き回るなという気持ちも分かるが、せっかくのデート(?)なのだ。
大人しくしていろというのは無理な話だ。

「はぐれることを心配しているならちゃんと私のことを見ていればいいじゃない」
「見ていますよ。あなた以外、私の目には映りません」「~っ・・・」

聞きなれた台詞なのに不意打ちはずるい。
セラスをじろりと睨むと、睨まれた意味を勘違いしたのかセラスはため息をついた。

「ご主人様はふらふらーとどこかに行ってしまうから心配しているだけなんです、私は」
「分かってるわよ、それくらい」

休日の街。
人が多くてはぐれてしまいそうになるくらいには街はにぎわっている。
正面から来る人が私とセラスの間を通り抜けようとした時、セラスは私の肩を抱き寄せた。

「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫」

すぐ肩から手は離れるが、その手は自然な流れで私の手を握った。

「お嫌でしたか?」
「ううん、嫌じゃない」

その手を握り返し、甘えるようにセラスとの距離をつめる。

「ねえ」
「なんですか?ご主人様」
「今の私たちって他の人からみたらどう見えるかしら」
「どう・・・とは?」
「友達とか、ご主人様と召使とか・・・恋人とかあるじゃない」
「ご主人様はどう見られたいんですか?」
「さあ、ね。でも、あんたは私に独身でいて欲しいんでしょう?」

いつまで経っても名前で呼ぶことに慣れず、私をご主人様と呼んでしまうセラス。
ぐっと言葉を詰まらせて、困った顔で私を見つめている。

「こ・・・恋人に見られたい、とはいえないです」
「ふーん、そう」

恋なんてしないというセラス。
だから私とセラスは恋人同士にはなれない。
セラスの言葉を思い出し、私は絡めていた指を強く握るとそれに応えるようにセラスも私の手を強く握った。

「・・・あんたって本当、」
「?」
「馬鹿よね」

離れたくない、という言葉をいつか聞けるまで。
いや、たとえ聞けなくたって私はセラスの手を離すことはない。

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