初めて聞いた(ヴィルラン)

思い返せば自分の人生のなかで誰かに酷く惹かれるという事はなかった。
幼い頃は将来はお父さんと結婚するの!と言って、お父さんを喜ばせていたくらいだ。
村にいた頃も異性とそこまで親しくなることもなかった。
だからこれが私の初恋なんだ、と思う。

「ん?どうかしたのか」

遅めの昼食として買ったサンドウィッチを備え付けの野外テーブルを利用して食べていたところ。
勢いよく食べる姿はなんだかおなかを空かせた子どものようだ。
初めて出会った時の彼の姿を思い出して、くすりと笑ってしまう。

「ここ、ついてる」

指先で唇の端についたマヨネーズをとると、ヴィルヘルムは照れたのか眉間に皺を寄せた。

「・・・ありがとな」
「ううん。おいしいね、このサンドウィッチ」
「ああ、うまいな」

自分の分のサンドウィッチを口に頬張る。
魔剣がなくなって、私たちは普通の人になった。
だから普通の恋人。
ヴィルヘルムが私を見つめる瞳は、他の人を見る時と明らかに違った。
態度にも、言葉でも示してくれるようになった私の恋人。
それが嬉しくて、むず痒い。

「ねえ、ヴィルヘルム」
「ん?」
「ヴィルヘルムは、私のどこが好き?」
「・・・っ!!」

口に入れていたサンドウィッチを出してしまいそうになったのをぐっと堪えて飲み込む。
コップにあった飲み物を一気に飲み干すと、涙目で私を睨んだ。

「何、急にそんなこと聞いてんだよ!」
「・・・だって」

聞いたことがなかったもの。
女の子としては聞いてみたい・・・と思っちゃ駄目なんだろうか。
伺うようにヴィルヘルムを見つめると、頭をがしがしとかいて私を睨んだ。

「・・・耳貸せ」
「うん」

テーブルに手をついて、彼に耳を向ける。
ヴィルヘルムも私に近づき、私の耳元でそっと小声で呟いた。

「・・・ぜんぶ」
「・・・!!」

驚いて彼の顔を見つめると、ヴィルヘルムは私から離れて残りのサンドウィッチを頬張った。
自分から言わせておいて、恥ずかしさで顔から火が出そうになる。

「・・・全部って、なに?」
「おまえのことで嫌いな部分なんて一つもないんだから全部だろ」
「・・・っ」

私は、彼のそういうところにとても弱い。

「私、ヴィルヘルムのそういうところ好きだよ」
「・・・は?」
「だからヴィルヘルムとおんなじ気持ちなんだね」「・・・ちょっと待て」
「なに?」
「俺、おまえから初めて聞いたんだけど」

ヴィルヘルムは赤くなった頬を隠すことをしないで私を見つめる。
テーブルの上で、私達の手が重なった。
ぎゅ、と握られるヴィルヘルムの手は少し湿っていてもしかして緊張していたのかもしれない。

「・・・いつも思ってるんだよ。
ヴィルヘルムのこういうところ好きだなぁって」「・・・そっか」

空いている手をヴィルヘルムの手に重ねる。
きゅっと握って笑うと、ヴィルヘルムも笑ってくれた。

「じゃあ、森行くか」
「・・・もう、そればっかりなんだから」

席を立つと、そのまま手を繋いで歩き出す。
いつもより強く握られた手が、私たちをまた少し近づけてくれた気がした。

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