ドアベルのライオンの吼える声が響いた。
火にかけてある鍋をちらりと確認したが、少しの時間くらいならこのままでも大丈夫だろう。
玄関まで早足でかけていき、私はドアを開けた。
「いらっしゃい、ロイ」
「やあ、オデット」
彼を出迎えるが、心なしか表情が固い。
とりあえず部屋に招きいれ、いつも彼がダイニングの椅子まで案内する。
私は彼に出すために紅茶を用意する。
「スープ、もう少し煮込んだ方が美味しいと思うから紅茶でも飲みましょう」
「ああ、ありがとう」
紅茶を注いだカップを彼の前に出すが、やっぱり表情が固い。
というかそわそわしている気がする。
「ロイ、どうかしたの?」
「え、いや・・・」
「なんだか様子がおかしいけど・・・もしかして体調が悪いとか?」
「いや、そういうわけではない」
じゃあなんだというのだ。
いぶかしげに見つめていると、ロイはわざとらしい咳払いをした。
「オデット、少し目を閉じてくれないか」
「え」
「変なことするわけじゃないぞ!?
僕が良いというまで目を閉じていてくれ」
「・・・わかったわ」
ロイの言葉にしぶしぶ目を閉じる。
何をするつもりなんだろう。
彼が動く音と、スープを煮込んでいる音くらいしか聞こえない。
でも、ロイの気配に妙に鼓動がうるさい。時間としてはつかの間だろう。
ロイの咳払いがもう一度聞こえた。
「目をあけてくれ」
声をかけられ、おそるおそる目を開けると私の目の前には花束。
白とピンクのマーガレットで彩られた花束は可愛らしい。
驚いてロイの顔を見ると、心なしか頬が赤らんでいた。
「いつもスープをご馳走になっているだろう。
これは僕から君への贈り物だ」
「ロイ・・・」
本音を言えばスープのお礼だというなら、食料の方が良かったかもしれない。
でも・・
「嬉しいわ、ありがとう」
ロイから贈られた花束があまりにも可愛くて、迂闊にも嬉しくてたまらない。
「良かった・・・
君のことだから花より食料が良いというんじゃないかと思ったんだ」
「・・・そんなわけないでしょう。
私だって、乙女なんだから」
思考が透けたのかと誤魔化すように笑うと彼から花束を受け取る。
「それじゃあ、今日もあなたが美味しいって言ってくれるようなスープ用意しないと」
「ああ、期待しているよ」
受け取るとき、少しだけ触れた指から伝わった体温に動揺したことを気付かれないように私は微笑んだ。