いつまでも隣にいて(朔深)

私の幼馴染は美しい。
幼い頃から年の近い異性は彼しかいなかった。
そのため、彼が美しいということを理解するようになったのはもっと後のことだったけれど。
儚げに笑う姿に、
好きな人を守って死ぬという未来を見た彼に、胸が苦しくなったのを今でも昨日のことのように思い出す。

 

 

 

「あら、朔也」

「やあ、深琴」

買い物から家に戻ると、ちょうど彼もどこかに行くところだった。
今日はお休みだから家にいるといっていたのに。
不思議に思い、行き先を尋ねるとにっこり微笑まれるだけで答えはもらえなかった。

「すぐ帰るよ」

「そう、気をつけてね。
いってらっしゃい」

「うん、いってきます」

一歩私に近づいて、額にキスを落として出て行った。
なんというか・・・

「もう・・・」

恥ずかしいけど、嬉しい。
どんな顔をして受け入れていいのかいまだに分からない時がある。
結婚して、夫婦になった今も。
やっぱりどこか気恥ずかしい部分がある。

(朔也はないのかしら、恥ずかしいこと)

私に触れるとき、ほとんど朔也は嬉しそうにしている。
もしも彼に尻尾がついているのならぶんぶんと振っているのではないかと思うくらい。
私を求める切羽詰った声を聞くと、胸の奥が締め付けられる。
それは昔感じた痛みとは違って、今はもう・・・愛おしさしか残らない。買ってきた荷物を片付け、夕食の下ごしらえを始める。
昔は朔也の方が上手になんでもこなしたけれど、私も毎日料理をするようになって腕前は上がった。
朔也よりも美味しく出来たと思う日も増えてきたけれど、やっぱり朔也は何をさせても私よりそつなくこなす。
優雅、というのは朔也のためにある言葉なんじゃないかと時々思うくらい。
なんていうとただの惚気みたいだと気付いてくすりと笑ってしまう。

何度も何度も思う。
こんな風におだやかなに朔也と過ごす現在が来るなんて、思わなかったから。
彼を失うことを恐れて生きてきたのだ。

 

「ただいま、深琴」

「おかえりなさい」

しばらくして朔也が帰ってきた。
キッチンに立つ私のもとに朔也が後ろに何かを隠しながら近づく。

「どうしたの?朔也」

「深琴」

いつものように優しく笑う彼の表情に、少しだけ緊張が混じる。
なんだろう、と小首をかしげると

「・・・っ」

「お誕生日、おめでとう。深琴」

朔也は大きな花束を私に差し出した。
驚いて動けない私の手を取り、朔也はやさしくその花束を私に手渡した。

「朔也、これ・・・」

「花屋さんに行ってね、深琴には絶対白が似合うって思ったんだ」

その花束は、白の薔薇だった。
本数は多くて数え切れない。
ずっしりとした重みにも驚くし、朔也が花束を贈ることにも驚いてしまっている。

「深琴が産まれてきてくれて良かった。
今、僕の隣にいてくれて・・・本当に嬉しい。
ありがとう、深琴」

「・・・さくや」

不意に、涙が零れた。
ああ、どうしよう。
すごく嬉しい。
花束をもらったことはもちろん、
朔也が私の隣にいてくれて、すごく嬉しい

「ありがとう、朔也」

あなたと生きていけること、どうしようもないくらいに嬉しいの

朔也はいつものように優しく笑うと、触れるだけの口付けを私にくれた

「ね、朔也」

「なに?」

「この薔薇、何本あるの?」

「99本だよ」

「ふうん。
99本というのはひどく中途半端に感じるけど、何か意味があるのかしら」

「ああ、それはね」

二人だけしかいないのに、秘密を打ち明けるように彼は私にそっと耳打ちした。

 

 

 

 

-99本の薔薇は、永遠の愛

 

Happy BirthDay Mikoto

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