隣で眠る深琴を見つめる。
綺麗な黒髪が頬にかかっていたのでそれをそっとはらい、頬をゆるりとなでた。
何度触れても足りない、と思う。
ふと、以前雪と話したことを思い出した。
「夏彦さん、夏彦さん」
「だまれ」
「まだ何も言ってないじゃないですかー!
それより知ってますか?お嬢さん、しつこい男は嫌いだそうですよ!」
「・・・」
「だから夏彦さんもしつこいことしたら嫌われちゃいますよー。
でも俺はしつこくして、蔑まれたからお嬢さんにちょっかいだしてきまー」
「死ね」
「え、ちょ!夏彦さん!
そんな蔑んだ瞳で見つめちゃって!!もっとしてください!」
・・・
余計なことまで思い出してしまった。
眉間に皺が寄ったことに気付いて、眉間を指で揉む。
あんまりこういう表情をしていると深琴に注意されてしまう。
『夏彦は笑った顔、凄く素敵よ』
そう言って笑った深琴は息を飲むほど綺麗だった。
眉間に皺が寄ると、深琴が今自分でしているように指でほぐそうとしてくる。
それがまた愛らしくて、すぐ皺なんてどこかへいってしまう。
「深琴」
起こしたいわけじゃない。
ただ、名前を呼びたかった。
初めて会った時はこんな風に自分の隣で彼女がおだやかな表情で眠る日が来るなんて考えもしなかった。
左手をそっと持ち上げて、手の甲にキスを落とす。
好きだといくら言葉にしても足りない。
何度身体を重ねても募る思いは増すばかり。
「なつひこ・・・?」
「起こしたか」
「ううん、そんな事ないわ」
そう言いながら眠そうに右手で目を擦る。
そして俺の顔を見て、くすりと笑った。
「何かいいことあったの?」
「何がだ」
「だってうれしそうな顔してるもの」
「深琴が隣にいるからだ」
好きな女の寝顔を見ているだけで幸せだということを教えたのは深琴だ。
深琴と出会い、恋を知って、幸せというものに気付いた。
握っていた左手を、指と指をからめるようにする。
深琴は恥ずかしそうに微笑むと俺の頬に手を伸ばす。
「私もうれしいわ。
夏彦が隣にいてくれて」
自然と頬が緩む。
空いてる手で深琴を抱き寄せると、肌が触れ合う。
触れた部分が、熱い。
「深琴」
しつこい男は嫌われる、という雪の言葉が脳裏をよぎる。
でも、この熱は俺だけのせいじゃないのだから。
額、目蓋、頬に口付けをゆっくり落としていく。
「・・・夏彦、だってさっき」
「もう一回、駄目か」
「・・・そんな顔されたら、だめって言えないわ」
額をすり合わせると、深琴から口付けを返してくれた。
その頬は、うっすら羞恥によって赤く色づいていた。
「これから先も、俺はお前だけを愛している」
「・・・うん、わたしもよ」
きっと明日は恥ずかしがってあまり口をきいてくれないだろう
その時はまた、星を見に誘うことにしようか。
明日のことを思いながら、深琴が好きなやさしいキスをした。