休日の昼下がり。
家まで迎えに来たルイスと一緒に市場をぶらぶらと歩く。
今日は特に何がしたいとかはない。
オデットに頼まれた茶葉を買う用事もあっという間に済んでしまった。
「ロザリア、喉渇かないか」
「そうねぇ、確かにちょっと乾いたかも」
「飲んでいかないか、あそこ。
うまいって評判なんだって」
ルイスが指差したのはジュース屋だ。
確か以前オデットも飲んで美味しかったと話していたのを思い出す。
美味しかったと言った後、何かを思い出して頬が赤くなっていたのも一緒に思い出した。
本当にオデットは可愛い。思い出しても可愛いのだから困る。
「ええ、飲みましょう」
ジュース屋に近づくと、店員によく通る声で声をかけられる。
「お、いらっしゃい!今ならカップル限定の特製ジュースあるよ!」
「カップル限定・・・」
確かに私とルイスはカップルだし、特製ジュースといわれると他のものより美味しそうに聞こえる。
ルイスをちらりと見ると、彼はカップルという言葉に気をよくしたのか、少し嬉しそうだ。
「ロザリア、それにするか?」
「え、えーと・・・」
少しだけ嫌な予感はするが、特製ジュースだ。
その言葉に惹かれて私は頷いていた。
「毎度あり!
カップル限定・特製ラブラブジュース、はいりまーす!」
頷いたことを後悔するようなネーミングに私は頬をひきつらせた。
ルイスは何も不思議に思う事はないようで、代金を支払ってくれた。
それからすぐ私は深いため息をつくことになった。
「はい、おまちどうさま!」
テーブルに運ばれてきたのは大きなグラスに注がれている鮮やかな赤色のジュース。
ブラッディ・トマトがメインに使われているそうで、情熱の愛の色だと店員から説明が入る。
別れ目の部分で可愛らしくハートになっている一本のストローがまたなんともいえない。
「・・・なあ」
「なに」
「ロザリア、飲みたいんだろ」
「ルイスだって喉渇いてたんでしょ」
カップル特製ジュースだといわれたけれど、これは聞いていない。
こんなに人が通る場所で一つのジュースを顔を寄せ合って二人で飲むなんて恥ずかしすぎる。二人で牽制しあいながら見つめ合う。
すると、人の声が耳に入る。
「あのカップル、ジュース飲まないで見つめ合っちゃって」
「よっぽどお互いのことが好きなのね~。羨ましい!」
「「・・・」」
この状況も充分恥ずかしいとお互いに悟る。
「もうこうなったら一緒に飲みましょう」
「・・・そうだな」
おそるおそるストローをくわえると、ジュースを飲む。
味は特製ジュースというだけあって美味しい。
さすがオデットが美味しいというだけのお店だ。
隣で一緒に飲んでるルイスも美味しいと思っているようでごくごくと喉を鳴らして飲んでいる。
恥ずかしいのと、喉が渇いているのも味方してあっという間にジュースはなくなった。
ジュース屋からすぐさま離れると、気付けば私たちは手を繋いでいた。
「ねえ、ルイス」
「なんだ」
「たまにはこういうのも悪くないかも」
今までは幼馴染として時間、思い出ばかりだったけれど、
こうして恋人としての時間、思い出を作っていくのは幸せなことだ。
さすがにもうカップル限定特製ジュースを飲む気にはならないけど。
「だな」
照れたように笑うルイスは、幼馴染としてよく知った顔をしているはずなのに初めて見るみたいな笑顔にうっかりときめいたのは言ってやらない。