月夜と緋色(空疎尊×詞紀)

季節は巡る。
全てを白に染める凍てついた冬を越え、
暖かな日差しのなか微笑んだ春が過ぎ、
日差しの眩しさに目を細めた夏を終える頃
-緋色の欠片が舞う、秋が来る

 

 

 

夕方から夜にかけて会合が開かれた。
会合といっても堅苦しいものは日中に済ませ、夜はお酒も入った食事会だ。
日ごろから村を散歩したり、子どもたちと遊んだりと交流はしていても不満というものは見えづらい。
だからそういうものを気軽に話せるような場を作りたかった。
少しずつだけど、良い方向に向かっている。
この会合があるたびに私は安心して微笑んでいた。

 

「詞紀」

「空疎様」

「少し出るぞ」

私の傍に人がいなくなった隙をみつけて、空疎様が私の手を引いてくれた。
そのまま庭まで行くと、縁側に腰掛けた。
私も空疎様の隣に寄り添うように座る。
遠くから秋房の騒ぐ声と胡土前様の豪快な笑い声が聞こえてくる。
さっきまでその場にいたとは思えないほど、ここは穏やかだ。
何を話すでもなく、私達はただ寄り添う。
空疎様は何を考えているのだろうか。
ちらりと隣の空疎様の様子を伺うと、空疎様は私を見つめていた。

「・・・っ、空疎様そんなに見つめては」

「我が愛する妻を見つめることはいけないことか?」

「いけないとは言いませんが・・・恥ずかしいです」

「ならば貴様も我を見つめればよいだろう」

得意げに笑う空疎様はいつもより少し浮かれているように見えた。
思わず彼の頬に手を伸ばした。
私の手のひらが触れると、空疎様は恥ずかしいのか眉間に皺を寄せて視線を逸らした。
いつもより、少し熱い。

「酔っていますね、空疎様」

「む・・・そんなに呑んではいないぞ」

「それは知っていますけど、まわりの熱に浮かされたんでしょうか・・・?」

時折空疎様の様子は伺っていた。
いつものペースでお酒を呑んでいる姿を見ていたからまさか酔っているとは思わなかった。

「・・・詞紀」

頬に触れたままの私の手に自分のそれを重ねる。
逸らしたはずの視線が、また私を射抜く。
肩を抱かれ、顔が近づく。
私を慈しむような優しい口付け。
目を閉じて受け入れると、仄かにお酒の香りが鼻腔をくすぐる。

(・・・私も酔ってしまいそう)

お酒は付き合い程度なら呑めるし、今日も少し頂いた。
だからもう許容量は越えてしまう。

(でも、空疎様なら看病してくれそう・・・
なんて考えたら妻失格よね)

唇が離れると空疎様は私の頬をそっとなでてくれた。

「貴様だっていつもより熱いぞ」

「・・・それは空疎様のせいです」

「ふ、貴様も言うようになったな」

空疎様が笑ってくれることが嬉しい。
たまに見せてくれる照れた表情も愛おしい。

「空疎様、あちらをみてください」

庭の片隅にある木は秋を迎えて綺麗に色づいている。
それが月の明かりに照らされてより一層幻想的だ。

「・・・美しい緋色だな」

「はい」

穏やかに緋色の欠片を見つめる空疎様が隣にいて、これ以上ない幸福を感じている。

「来年もこうして一緒に見れたら良いですね」

「当然だ。来年も再来年も・・・その先も、ずっと我と貴様は共にいるのだから」

 

この緋色の欠片が散って、再び冬が訪れてももう怖くない。

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