ふと、隣にあるぬくもりが消えたことに気付いたように目を覚ました。
手を伸ばすと、セラが寝ている場所にはなにもなかった。
それを理解した途端、身体が急に冷え切ったような感覚に陥る。
「・・・セラ?」
かすれた声で名前を呼ぶが、返事はない。
目を擦りながら身体を起こすと、窓の傍に彼の姿を見つけた。
「セラ、何してんの?」
「あれ、起こしちゃったかな」
「あんたが隣にいないと寒いでしょ」
「・・・寂しくなったってこと?」
試すようにくすりと笑うセラがなんだか腹立たしくて体当たりするように彼にくっついた。
「・・・そうだったらどうすんの?」
「僕の王妃は可愛いな」
「・・・あっそ」
自分からくっついたのに、わたしの方が照れているようで悔しい。
セラが見ていた窓の向こうを見る。
世界はまだ、暗闇だ。
「なにみてたの?」
「月を見てたんだ」
「月?」
「そう、今日は満月だって」
見上げるように視線を移動すると確かに黄色っぽい円が空に浮かんでいた。
月なんてじっくり見たことあったっけ?
思い出せない。
「そういえばアスパシア、知ってる?
月にはうさぎがいるんだって」
「え?うさぎ?」
小さな動物は可愛くて好き。
わたしの目が輝いたのか、セラはまたくすりと笑った。
「ねえ、アスパシア」
「なに」
「こっちをむいて」
わたしの頬に触れると、顔が近づく。
わたしが向かなくたって、自分から近づくくせに。
大人しく目を閉じて、口付けを受け入れる。
「アスパシア、今日は月が綺麗だね」
「え?」
何を言ってるんだろう、ときょとんとするとセラは私を抱き締めた。
「異国の書物にあったんだ、かっこいいくどき文句」
「・・・今の口説き文句だったわけ?」
意味が伝わらないんじゃ意味ないじゃん、と続けようと思ったがやめた。
だって、セラの想いは今の口付け・・・ううん、日ごろから充分伝わってるから。
「きみを愛してるって意味」
「・・・ふーん」
セラの背中に手を回し、強く抱き締め返す。
「ねえ、セラ」
「何かな、僕の王妃」
「・・・月、綺麗ね」
「・・・ああ、でもきみの方が何よりも綺麗だよ」
「・・・ふふっ」
自分から言い出したくせに。
我慢できなくて声に出して笑ってしまう。
「セラ、大好きよ」
飾った言葉なんていらない。
こうやって言葉にして伝えられる想いが、この胸にあるんだから。
それにセラが抱き締めてくれるから、さっきまでの寒さなんて、どこかにいってしまったもの。