「わぁ・・・小さい手ですね!」
ご近所さんに赤ちゃんが生まれたと聞いて、お祝いを届けに行くと赤ちゃんがお母さんに抱っこされていた。
きゅっと握り締めた手は自分の手と比べるまでもなくとってもとっても小さくて、私が触れたら壊れてしまうんじゃないかと不安になる。
「よかったら抱っこしてみる?」
「え、でも・・・!私、赤ちゃんを抱っこしたことがないで・・・」
もしも何かあったら大変だ。
私は抱っこしてみたいという気持ちを抑えて、申し出を断る。
「じゃあこの子がもう少し大きくなったとき、遊んであげてね」
「はい!もちろんです!」
小さな小さな手にそっと人差し指だけ触れる。
するときつく握りしめられて、私は自然と笑みをこぼしていた。
◆
「ただいま帰りました」
「おかえり、こはる」
図書館の休みの日。
こはるは近所で赤ちゃんが生まれたという家にお祝いの品を持っていった。
近所づきあいは俺もそれなりにしているが、体の大きな俺も一緒にいて子供に泣かれたら困る・・・と思い、今回はこはるに任せることにした。
「こはる、どうかしたのか?」
「あ、いえ・・・」
ソファで本を読んでいる俺の隣にちょこん、と寄り添うように座る。
こはるが以前子供たちと桜を押し花にして作ってくれた栞を本に挟むと、テーブルの上にそれを置く。
「読書の邪魔しちゃいましたね」
「こはるとの時間の方が大事だ。
何かあったのか?」
「・・・正宗さん」
頭をゆっくりとなでると、少し落ち着いたのか甘えるように肩にもたれかかってくる。
以前より少し伸びた髪。こはるが作ってくれた栞は、こはるの髪のように綺麗な色だ。
「正宗さんの夢って、なにかありますか?」
「そうだなあ」
こはると穏やかな日々を過ごしていけるならそれ以上の望みはない。
大事なこの子が、もう二度と心を痛めるようなことがないように生きていくことが夢というか目標なのかもしれない。
けど、これを口にするのはなんとなく憚られる。
言葉にしたら、想いの重みがなくなってしまうような気がするのだ
「こはるは何かあるのか?」
「もう正宗さん。私が質問したのにずるいです」
「はは、ごめんな。それで?こはるの夢は?」
「・・・家族が、ほしいです」
ぽつりとこはるが口にする。
予想していなかった言葉だったため、言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかってしまった。
「でも、私・・・お母さんになれるわけないですよね。
今だって正宗さんとこうやって幸せに暮らしてるのにこれ以上を望むなんて贅沢ですよね」
俺がすぐ言葉を発しなかったためか、こはるは否定的な言葉を口にする。
能力のせいでこの子は苦しんできた。
人と関わりたいのに、能力のせいで忌み嫌われ、孤独に生きるしかなかった。
誰よりもやさしい子なのに・・・
「こはる」
頭をなでていた手は、気づけばこはるを抱きしめていた。
突然のことに驚いたのか、一瞬肩をこわばらせたがすぐ力が抜けた。
「おまえは誰よりも優しい子だ。
図書館に来る子供たちにも優しくて、いつも慕われているだろう?」
「・・・」
少し体を離し、額と額をあわせる。
すぐ近くにあるこはるの瞳が揺らいだ。
「こはるはよいお母さんになるよ」
「・・・まさむねさん」
一筋、涙がこぼれる。
「こはるはすごいな。
俺はこのままこはると一緒にいれれば幸せだって思っていたのに、こはるはもっと幸せになれることを考えてる」
「・・っまさむねさん」
涙を零すこはるは、酷く綺麗だ。
こんな綺麗な涙を零すヒトが、もっと幸せにならないでどうする。
幸せにしてやりたいと願っていたのに、俺のほうが幸せにされている。
「まだ先の話かもしれないけど、いつかその日が来たら・・・
二人でがんばろうな」
「・・・はい!」
涙をぬぐってやると、こはるはようやく笑ってくれた。