穏やかな春が終わり、気付けば夏がやってきた。
日差しも強くなって、肌が汗ばんでいくのも分かる。
「姉さん、顔赤いけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。今日いつもより暑いね」
洗濯物を干していると、手伝ってくれていた陸が私の顔を見て心配そうな表情になる。
「それなら浴衣を着たらいいんじゃないかしら」
唐突に真緒姉さんがそんな言葉を投げかけた。
確かに洋服より浴衣の方が涼しいかもしれない。
洗濯物を干し終われば、大きく動くようなこともないし。
「そうだね、浴衣着ようかな」
「そうしましょう!早速用意するわ!」
真緒姉さんは嬉しそうに手を合わせると、奥に引っ込んだ。
「姉さんの浴衣か・・・」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
陸は照れたように顔を背けると、残りの洗濯物を干していってくれた。
「珠洲ー!陸ー!用意できたからいらっしゃい!」
「はーい」
「俺も呼ばれてるっていうことは俺も着るのか?」
「いいじゃない。一緒に着よう」
「・・・姉さんがそう言うなら」
陸の手を引くと、二人で真緒姉さんのもとへ向かった。
私も陸も着付けは一通り出来るので、浴衣もそれぞれ自分で着ることが出来る。
着替え終わると、先に着替え終わっている陸のもとへ冷えたお茶を持っていった。
陸は縁側でうちわを仰ぎながらぼんやりと外を見ていた。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
グラスを渡すと陸は私を見つめて優しく微笑んだ。
「姉さん、その浴衣似合ってる」
「あ、ありがとう」
まじまじと見られるのが恥ずかしくて、陸の隣に座る。
自分の分に持ってきたグラスに口をつけつつ、陸をちらりと見る。
陸は昔から体が大きいし、がっしりとしているから浴衣を着るとそれが色気に変わるというか・・・
見慣れない陸の姿にドキドキしてしまう。
「・・・暑いね」
「そうかな。着替えて涼しくなったと思うけど」
自分を仰いでいたうちわを私に向けて、緩やかな風を送ってくれる。
「どう?」
「ありがとう・・・気持ち良い」
「良かった」
お茶を一口飲むと、恥ずかしいのを堪えて口を開いた。
「陸・・・浴衣姿すごいかっこいい」
「・・・・っ」
「なんか照れちゃうね、改まって言うと」
照れを誤魔化すように笑って陸の方を見ると、陸の手が私の肩に置かれた。
気付けば唇が触れ合っていた。
突然のキスに驚いたけど、嬉しい気持ちの方が勝っていた。
「・・・急にごめん」
「ううん」
唇が離れると、陸の頬は赤らんでいた。
触れている半身が熱い。
「やっぱりあついね、今日」
「うん、そうだね」
そういいながら、陸と私の手は重なっていた。
ただ暑いだけの日が、色を帯びた気がした。