鏡の前で何度目かの確認をした。
こないだ買った新しい服はまだ自分のものと言えるほど馴染んではいなかったけど、それでも一番に見せるなら彼が良い。
コンコンとドアを叩く音がした。
時計を見るともう約束の時間だった。
「ごめんなさい、ナチ。
迎えにきてもらってしまって」
ドアを開くとナチがいた。
今日は二人とも休みのため、ナチも私服だ。
「いえいえ。フウちゃんをお迎えに上がれるなんて光栄ッス」
「・・・ナチ」
「さあ、行きましょう」
「はい!」
パートナー同士ではない私たちの休みが重なることなんてまずない。
だけど、チカイがうまく調整してくれたおかげで私たちは久しぶりに一緒の休みをとることが出来た。
さすがに家事はナチ以外に出来るものがいないので、ご飯の支度などはナチが休みでも変わらず用意をしてくれる。
「フウちゃん、どこか行きたいところありますか?」
「そうですね・・・
あ、こないだ新しく出来た雑貨屋さんに行きたいです!」
「それじゃあ行きましょうか」
ナチが私に手を差し出す。
手を繋ごうといってくれているのだ。
驚いてナチの顔を見ると、彼は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「えっと、はぐれないように・・・なんて理由じゃ駄目ッスか?」
「いいえ、駄目じゃないです」
ナチの手にそっと自分の手を重ねてきゅっと握った。
じんわりとナチの熱が伝わる。
ナチの熱が伝染したように私の頬も熱くなっていく気がした。
「ナチの手、大きいですね」
「そりゃー自分も男ですから」
「それは知っています」
「そうッスよね」
「ほら、ナチ行きましょう」
ナチの表情が優しくて、その優しさが自分に向けられるのが嬉しくて恥ずかしい。
そんな気持ちを隠すように彼の手を引いて、少し歩く速度をはやめた。
「ナチ見てください!これすっごく可愛いです」
新しく出来た雑貨屋さんにはアクセサリーも飾ってあった。
その中の一つに目を奪われ、思わずはしゃいでしまう。
「可愛いッスね、フウちゃんに似合いそう」
「そうですか?」
それはシンプルな星型のネックレス。
アクセントになるように小さな石が一つついているのだが、それが可愛らしい。
「あれ、ナチの髪の色に似てます」
「こっちにあるのはフウちゃんの髪の色に似てるッス」
それをじぃっと見つめていると、ナチはくすりと笑った。
「お揃いで買いましょうか、これ」
「え?」
「ほら、ネックレスならしててもさりげないし、良いかなーって」
「・・・嬉しいです」
ナチの言葉が嬉しくて、思わず笑みが零れる。
そんな私を見て、ぐっと拳を握った。
「今、すっごくフウちゃんを抱き締めたい気分ッス」
「!!
こんなところでは駄目です、戻ってからじゃないと」
「もちろんこんなところではしないッス!
でも・・・戻ってからなら良いんですか?」
「それは・・・その、」
繋いでいた手をきゅっと握る。
言葉にするのは恥ずかしくて、ちらりと上目遣いでナチを見て訴えた。
「あんまり自分を煽らないでほしいッス」
「え?」
「なんでもないッス!お会計済ませてくるッス!」
ナチは誤魔化すように笑うと、ネックレスを手に取りレジまで持っていった。
その後も色々とお店を回り、夕食の支度の時間に間に合うように帰路についた。
帰り道、ナチの胸元を見るとさっき買ったばかりのネックレスが輝いていた。
それと同じものを自分が身に着けているのが嬉しい。
「そういえばフウちゃん」
「なんですか?」
「言うの遅くなってしまったんですが、今日はいつもよりずっと可愛いッス」
「・・・ナチと出掛けるので、おしゃれしてみました」
ナチは驚いたように私を見ると、慌てて周囲を確認した。
もうすぐ天遣塔だからだろう。周囲に人はいなかった。
「ちょっとだけ抱き締めてもいいッスか」
「・・・はい」
こくりと頷くと、ナチがそっと私を抱き寄せた。
とくん、とくんとナチの鼓動が私に伝わる。
「君のことが大好きです、フウちゃん」
「私もナチが大好きです」
仲間たちに見られるかもしれないと思っても離れられなかった。
どうかもう少しだけ、このままでいたい。
そんなことを願いながらナチを抱き締め返した。