「レイラ?無理しなくてもいいんですよ?」
繋いでいる手が痛い。
レイラは無意識なのか、強く私の手を握っている。
「無理なんてしていない。いや、してるけど。
それよりもアンタを喜ばせたいし。他の奴に出来て、俺が無理とかないだろ」
真っ青な顔をしながらレイラは私の手を引いた。
そして、それに乗り込む。
そう、これは観覧車だ。
「フウちゃん、フウちゃん!
なんか近くに観覧車できたらしいよー。
俺と乗りに行こうよ!」
ユンが雑誌を片手に私の元へやってきた。
ページを開いて見せられたのは近々、観覧車が出来るということ。
そういえば、書いてある場所は何か建設中に見えたけどそれが観覧車だったなんて。
「ユンと行くのは遠慮しますが、観覧車良いですね」
「ええ、俺と行くのはなんで駄目なんだよー。
いいじゃん、行っちゃおう?それでもって俺と一緒に星空のハネムーンに!」
「歩く18禁が何言ってんだよ。フウがお前とどこか行くなんてそもそもありえないし。
フウに気安く近づくなっていつも言ってると思うんだけど」
いつの間にかレイラが部屋に来たらしく、私を後ろから抱き寄せる。
驚いて振り向くと、レイラは不機嫌そうに顔を背けた。
「女の子はこういうロマンティックなデートが好きなんだよ!
わかってないなぁ、レイラは。高所恐怖症のレイラには無理だろうけどー。
ふっふーん!」
「はぁ!?」
言い終わると、ユンは逃げるように部屋から出て行った。
なんだか気まずくてレイラを上目遣いに見つめると、視線がぶつかった。
「・・・っ!
アンタ、そういう顔反則」
「え?」
「それより。あいつが行ってた場所行きたいのか?」
「ええ、興味はあります。けど・・・」
「じゃあ今度行こう」
「え、でも」
「いいから」
高いところが何よりも苦手なレイラには観覧車なんて無理なんではないか。
けれど、レイラは私の言葉を突っぱねて、話は冒頭に戻る。
「わあ・・・レイラ、すっごい綺麗ですよ!」
観覧車から見下ろす景色はとっても綺麗だ。
感激のあまり隣にいるレイラの手を引っ張ると、それよりも強い力で引き戻される。
「無理むり無理。外を見るなんてありえないだろ。
なんでこんな小さな箱が回るわけ?発明した人の神経を疑う。意味が分からない」
「レイラ」
きつく手を握られて、レイラが怖がっているのが痛いほど分かる。
もうすぐ頂上。
私は空いてる手をレイラの手に重ねた。
「レイラ、知っていますか?」
「なにを?」
こつん、と額を合わせる。
レイラの息遣いをすぐ傍で感じる。
「観覧車の頂上でキスをすると、その二人はいつまでも幸せでいられるんですって」
ようやく目が合い、私はレイラにかすめるようにキスをした。
「高いところが怖いのに、私のために無理してありがとうございます。
レイラの気持ち、すっごく嬉しかった」
「フウ・・・」
強く握っていた手が離れ、すぐさま強い力で抱き締められる。
「俺、アンタのことすっげー好き」
抱き締める腕はそのままで深く口付けられる。
先ほど私がしたような軽いものじゃなくて、レイラの想いが伝わってくるような深い口づけだ。
「フウ、俺はもうアンタしか見てないから」
「私もです、レイラ」
観覧車が地上に着くまでもう少し。
お互いの存在を確かめ合うように、私たちはもう一度唇を重ねた。