孫権様と久しぶりに二人で出掛けた日のこと。
朝、空を見上げたときは雲ひとつない快晴だったのに気付けば土砂降りになっていた。
「・・・雨、凄いですね」
「ああ、そうだな。
この時期は天気が読めないんだ」
雨宿りがてら入ったお店で食事をしているが、外の音がいちいち気になって集中できない。
個室に通してもらったのだから周囲の音というよりも・・・
「関羽、口に合わないか?」
箸があまり進まない私をおかしいと思ったのか、心配そうにじっと見つめられる。
「ち、違うんです!その・・・外が気になってしまって」
慌てて口を開くが、あまりに子供じみた理由だから言うのが恥ずかしい。
「外?雨が気になるのか?」
「・・・雨というか」
ちらりと孫権様の顔を見ると、真剣な表情で次の言葉を待っていた。
孫権様なら呆れたりしないでくれるかもしれない。
膝の上で手を握り締めると、私はようやく言葉を発した。
「雷が苦手なんです」
「・・・そうか」
孫権様は頷くと立ち上がり、私の隣に移動してきた。
どうしたのだろう、と見つめていると孫権様がふっと微笑んだ。
「あなたが苦手な雷をなくすことは出来ないが、私があなたの隣にいることによって少しでも恐怖が拭えないだろうか」
「・・・孫権様」
膝の上で握り締めていた手に孫権様の手のひらが重なる。
「その・・・手を握っていたほうが安心できるんではないか」
じっと見つめると、孫権様は少し頬を赤らめた。
「尚香が小さい頃、怖い夢を見たといった時こうして手を握ってやると安心したんだが」
「はい、とっても安心します」
孫権様の手を握り返す。
手のひらから伝わる孫権様の優しさがどうしようもなく嬉しい。
「でも、手を繋いでいたら食事できませんね」
「む・・・」
そこまでは考えていなかったらしく、孫権様は黙ってしまう。
(孫権様、可愛い。食事はもう少し落ち着いてから食べようかしら)
そんな事を考えていると、孫権様の手が離れる。
それからすぐ、後ろから抱き締められる。
「-っ!」
「これなら両手が空くから食事できるだろう?」
確かに両手は空いたけど。
後ろから抱き締められているのに、食事なんて喉を通るわけない。
心臓が高鳴るのをおさえられない。
きっと抱き締められていたら食事できないと言ったら離してくれるだろう。
だけど・・・孫権様から離れたくない。
「そうですね。でも、少しだけ食事はあとにして・・・このままでいても良いですか?」
「ああ、私もそうしたいと思っていた。
あなたが同じ気持ちで嬉しい」
回された腕にそっと触れる。
目を閉じると、雨音が聞こえた。
さっきまで雷がいつ鳴るのか怖くて仕方がなかったのに、今は穏やかな気持ちで雨の音を聞いていられる。
「こうしていたら雨音も、なんだか素敵に感じます」
「あなたといると、世界が今までより美しくみえる」
抱き締める腕に少し力が籠もる。
「関羽。どうかこれからも私の傍にいて欲しい」
「ふふ、もちろんです」
雨が降り始めたときは沈んだ私の心はすっかりいつもよりも満たされていた。