記念写真(拓珠)

「おい、拓磨」

名前を呼ばれ、振り返るとパシャリ、と音がした。
何事かと思えばいつも騒がしい、真弘先輩が得意げにインスタントカメラを持っていた。

「どうしたんですか、急に」

「ん?家にあったんだけどよー、何枚か残ってるからさっさと撮って現像に出しちまおうと思ってな」

「だからってなんで俺を」

「お前の間抜け面を残しておくのもいいだろ?
お、ちょうどいいところに。珠紀!」

真弘先輩は珠紀を見つけると大きな声を出して呼び寄せる。

「ちょうどいいところに、じゃないですよ。
境内の掃除をしてる拓磨と真弘先輩の様子を見てきてほしいって美鶴ちゃんに言われたからきたんですけど」

ほうきを片手に持つ俺と、手にはほうきを持たずインスタントカメラを持ってる真弘先輩。
珠紀はわざとらしくため息をついた。

「真弘先輩、何遊んでるんですか?」

「ちげーよ!遊んでるんじゃねーよ!
俺は今、記念写真を撮ってんだよ!」

「記念写真?」

「ったく、しょうがねえな。
拓磨、珠紀!そこに並べ!」

珠紀は真弘先輩に言われるがまま、俺の隣に並んだ。
その様子を見て、真弘先輩はカメラを構えるとにやりと笑った。

「よぉっし!この偉大なる鴉取真弘先輩様がお前たちの2ショット写真を撮ってやる!」

「はぁ!?な、何いってるんですか!」

「ちょ、真弘先輩」

「いいからいいから!はい、チーズ!」

俺たちの言葉なんて無視して、傍若無人な先輩はシャッターを押した。
パシャリ、とさっきと同じように音がすると真弘先輩は残りのフィルムを使い切ったのを確認していた。

「じゃあ、俺ちょっと商店街に現像出してくるからな!
拓磨、あとはよろしく!」

「真弘先輩っ!!」

俺の制止も無視し、真弘先輩は駆け出していった。
取り残されるのは俺と珠紀。
ちらり、と珠紀を見つめると心なしか頬が赤かった。

「あれって現像にどれくらいかかるのかな・・・」

「さあ、一週間とかじゃないのか?」

「そっか」

「どうした?」

「・・・拓磨と写真撮るの初めてだなって。
ちょっと嬉しいかも」

えへへ、と笑う珠紀を抱き締めたい衝動にかられる。
いや、抱き締めてもいいだろう。俺たちは付き合っているんだから。
珠紀に手を伸ばすと、美鶴が俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

「・・・拓磨、美鶴ちゃんが」

「ああ、聞こえてる」

掴んだ腕を離したくなくて、俺は珠紀を見つめた。

「少しくらい、良いかな」

「・・・だな」

ぎこちなく抱き締めると、見つめ合って笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、真弘先輩から渡された写真は残り1枚と聞いていたものの他に、俺と珠紀が抱き合って微笑みあっているものもあった。
映ってる珠紀が恐ろしい程可愛くて、生徒手帳に仕舞いこんだのは卒業するまでの秘密だ。

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