夏彦が作ってくれた白いひよこ。
さらわれてきたばかりの頃は怖くて不安で私はどんどん弱っていった。
そんなときにこの白いひよこが現れた。
「あなたは私に幸せを運んでくれたのかしら」
ぽつりと私は呟くと、白いひよこが「ぴ?」と鳴いた。
二人きりのときはよく話してくれるのに、他の人がいると全然話してくれない。
台所で夏彦に差し入れするコーヒーを落としながらその時間にぽつりぽつりと話しかける。
「もしかしたらあなたがいたから、こんなにも夏彦のことを好きになったのかもしれないわね」
初めは怖くて仕方がなかったのに。
あんな野蛮人って思っていたのに。
今では夏彦がいない日々なんて考えられない。
今日も夏彦が好き。明日はもっと好きになる。
そんな日々を積み重ねていって、いつかもうこれ以上好きになれないって日が来るのかしら。
今のところ、天井は見えていない。
「ねえ、私すっごい幸せなの。夏彦が隣にいてくれるだけですっごく幸せ。
今まで使命のことばかりで誰かを好きになるなんてなかったから知らなかったけど・・・
恋っていいものね」
ひよこに話しかけている内にコーヒーが用意できたので、チョコレートと一緒に夏彦の部屋へと運ぶ。
糖分を補給すると疲れが取れるらしい。
「夏彦、入るわよ」
コンコン、とノックをし夏彦の返事が聞こえたのを確認して部屋に入る。
コンピュータに向かって夏彦が何か作業しているようなので、彼の近くにコーヒーとチョコレートを置く。
夏彦の顔を見ると、なんでだか耳が赤かった。
「どうかしたの?」
「何がだ?」
「夏彦、耳が赤いわ。もしかして風邪?」
額に手を伸ばすと、その手を取られて力強く抱き寄せられた。
「深琴・・・」
夏彦の吐息が耳にかかる。
くすぐったさに身をよじろうとするが、私を逃がすまいと強く抱き締められるだけだった。
「俺も幸せだ、お前がいて」
「・・・夏彦」
夏彦の言葉が嬉しくて、私も抱き締め返そうと腕を回したところでふと気付く。
「・・・俺”も”?」
「・・・」
「ねえ、夏彦。俺もって・・・っ、」
どういう意味なの?と言葉を続けようとしたのに。
唇を塞がれてしまって言葉は飲み込まれてしまう。
彼の想いを伝えるような、熱い口付けに私は翻弄されてしまい、結局些細な疑問は溶け落ちていってしまった。