中学の卒業式の日、初めてキスをした。
初めてキスをした、というより唇を奪われたという方が正しい。
私とトラの間では、甘い空気というものは流れない。
ただ、お互いがお互いを求めて、ここまでたどり着いたと言ってもおかしくない。
ようやくお父様を説得して、二人で旅行に出掛けた日の夜。
私たちは初めて抱き合った。
(・・・喉が渇いた)
明け方、私は目を覚まして布団から出ようと身体を動かす。
だけどがっちりとトラに抱き締められていて身動きが取れない。
付き合い始めて何年が経っただろうか。
小学校6年生の時に出会い、中学3年生の時から付き合うようになった。
キスは数え切れないくらいしたけれど、私達はずっと一線を越えなかった。
強引なくせに、私が本当に拒む事はしない。
だからからかうように私の身体に触れる事があっても、少しでも私の身体が逃げると止めてくれる。
初めてのキスのように強引に奪ってしまってもよかったのに-
トラは優しい。
多分、その優しさは私にだけ向いている。
それが胸の奥を締め付ける。
「トラ・・・ありがとう」
恋人の頬にそっと触れる。
「なにがだよ」
「え・・・?」
眠っていると思っていたら、トラの目がぱちりと開き、視線がぶつかる。
「・・・撫子、大丈夫か?」
「ええ、ちょっと喉が渇いただけ」
「ん・・・」
甘えるように私の首筋に顔を埋めてくる。
なんだか子供みたいな仕草に笑みが零れる。
「・・・次はもっと優しくする」
顔を上げると、耳朶にそっと口付けてそんな事を言った。
その言葉の意味を理解して、私はあっという間に顔を赤くした。
それから頬に軽くキスを落とすと、私の代わりに飲み物を取りにいってくれた。
その背中に、昨晩の名残を見つけた。
「ほらよ」
「ありがとう」
コップを渡され、それを一気に飲み干した。
布団にもう一度入ろうとするトラの背中にしがみつくように抱きついた。
「私も、次はもっと優しくするわ」
自分がつけた爪跡にキスを落として誓う。
ぴくり、とトラの肩が震えた。
「お前、そんな煽ると優しくできねえぞ?」
呆れたようにつぶやくと手首を掴まれ、押し倒された。
「あら、さっきの言葉は嘘だったの?」
「上等だ」
にこりと笑ってみせると、トラも悪人のようににやりと笑った。
ただ思うように奪い合えばいいの。
だって私はトラのものだし、トラは私のものだから。
重なった唇は、初めてのキスのようだった。