カレーライス(ナチフウ)

食べたいものはリクエストしたらナチが用意してくれる。
ナチにお礼を言うとバトラーの役目っす!と笑うけど、恋人に食事の用意やら何やらしてもらっているのは気が引ける。
私とナチの仕事は違う。それは分かっているけれど。
だけど、たまにはナチを喜ばせてみたい。

「あれ?フウちゃん、どこ行くの?」

廊下でユンと出くわし、私は持っていた本を慌てて背中に庇う。

「ちょっとそこまでです」

「そうなんだ。ナチなら買出しに出てるみたいだよー」

「・・・それは知ってます」

私とナチが付き合っているのはみんなが知るところ。
仕事に影響が出ないなら・・・とナナさんも頷いてくれていたから問題はないのだけれど、こうして付き合っている事を触れられるのは少し恥ずかしい。ユンとの会話もそこそこに切り上げ、私は主のいない部屋へと入る。
キッチンはナチの部屋、といってもいいくらいナチが普段いるから。
彼が買出しに出てる時とかじゃないとバレてしまう。

「それでは・・・やりますか!」

エプロンを身につけ、私は腕まくりをして気合を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

今日の晩御飯は久しぶりに定番メニューにしよう、と決めていた。
日用品や食材なども充分買ったし、しばらくは大丈夫だろう。
キッチンの扉を開けると、そこにはフウちゃんがいた。

「あれ、フウちゃん。どうしたっす・・・」

「え、ナチ・・・っ」

振り返ったフウちゃんの目は真っ赤で、涙を流していた。
持っていた買い物袋を放り投げ、フウちゃんの下へ駆け寄った。

「どうしたっすか!?なにがあったんですか!?」

フウちゃんの細い腕を乱暴に掴んで問いただそうとする。
フウちゃんは首を左右に振る。

「違う・・・・ちがうんです、ナチ!」

「何が違うんすか、そんなに泣いて・・・!!」

何が彼女をこんな風に苦しめてるのだろう。
そもそもそれに気付かなかった自分が悔しい。
暢気に買い物をしている場合じゃなかった。

「たまねぎを!!」

「・・・はい?」

「たまねぎを刻んでいたら涙が出ただけです!
たまにはナチに恋人らしいことがしたくて、カレーを作ろうとしてたまねぎを切ってたら涙が出ただけなんですっっ!!」

多分、自分が慌てたからだろう。
フウちゃんは叫ぶように言った。
たまらなくなって、フウちゃんを強く抱き締めた。

「フウちゃん、落ちつくっす!
自分も、その・・・落ち着くんで」

彼女の背中をさすってやると、フウちゃんは深呼吸を数回繰り返し落ち着いた。
あー、動揺しないように訓練してるはずなのに・・・
彼女の涙でこんなに慌ててしまうなんて恥ずかしい

「えと、すいません・・・だからまだ作ってる最中です」

「カレーを?」

「はい」

抱き締める腕を緩め、見つめ合う。
触れるだけのキスをフウちゃんに贈るとにっこりと微笑んでみせた。

「今日は自分もカレーにしようと思ってたんで、通じ合ってるみたいで嬉しいっす。
一緒に作りませんか?」

「・・・はい!」

二人でキッチンに並ぶ姿をチカイさんに見られて、新婚さんみたいだね~☆と冷やかされたのはそのしばらく後。
自分で作るものより、フウちゃんが手伝ってくれたカレーライスはいつもより美味しく感じられた。

 

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