陸の誕生日。
今までも陸の誕生日は私にとって、大事な日のうちの一つだった。
だって大切な弟の誕生日だもの。
子供の頃は休みの日の誕生日は友達におめでとう、と言ってもらえなくて寂しいんじゃないかって心配していた。
だから私はいつも彼におめでとう、と誰よりも初めに伝えて、誰よりも最後にも改めて祝った。
だけど今までとは違う。
だって今年は・・・私と陸は恋人同士だから。
「姉さん、片付け手伝うよ」
「今日の主役なんだから良いんだよ、陸」
台所で後片付けをしているとひょっこりと陸がやってきた。
居間の方からは賀茂くんとエリカたちのにぎやかな声が聞こえていた。
「俺が姉さんを手伝いたいんだ。
・・・駄目かな?」
頬を赤らめながら、私の隣に立つ陸を見てつられて私も赤くなってしまう。
「それじゃあお皿拭いてくれる?」
「ん、分かった」
私が洗ったお皿を丁寧に拭いていく。
陸は几帳面な性格で、家事を手伝ってくれるといつも丁寧にしてくれる。
「陸はいっつも丁寧だね」
「姉さんの手伝いをしてるんだから当然だよ」
「ふふ、そっか」
陸の誕生日なのに、私が喜んでばかりでは駄目だな。
だけど、陸の一言や些細な行動が私には嬉しい。
隣に立つ陸に甘えるように身体を寄せる。
一瞬、陸が息を飲む気配がする。
その体勢のまま残りの洗い物を済ませると陸の手伝いを始めた。
触れている部分が凄く熱い。
お互い何も言葉を発しないけど、嫌な時間じゃない。
全ての食器を片付け終わると、陸が私の手をとった。
「少しだけ、良いかな」
そう訴える陸の瞳は凄く真剣だった。
断る理由なんてあるはずもないんだから私はこくりと頷いた。
陸の部屋に手を引かれる。
陸の部屋はいつだって綺麗だ。
他の男の子の部屋は見た事がないが賀茂くんの部屋が片付かない!とエリカがため息まじりに話していた事を考えると男の子の部屋ってもっと散らかってるんだろう。
陸の部屋は酷くても雑誌が数冊ちらばっていたりするだけなのでいつも感心する。
恋人同士になってからは部屋に入ると、私はドキドキしていた。
陸の香りがする部屋で落ち着けるわけがない。
「陸・・・」
「姉さん」
部屋に入るなり、陸にきつく抱きしめられる。
その背中に腕を回し、抱きしめ返した。
「やっと二人になれた」
「・・・うん」
陸をお祝いしようって集まってくれたことはすっごく嬉しいけれど、陸と二人きりになりたいと思っていたから。
陸がそう言ってくれて、同じ気持ちだった事が嬉しくて笑みを零す。
「姉さん、俺・・・欲しいものがあるんだけど良いかな」
「うん、いいよ。何が欲しい?」
ものを強請らない陸が珍しく、甘えるように耳元で囁いた。
「年の数だけ・・・姉さんからキスが欲しい」
「・・・っ!」
耳朶に口付けられ、身体が熱くなる。
熱に浮かされたような瞳で陸が私を見つめる。
たまらなく恥ずかしいが、私はさっきと同じようにこくりと頷いた。
そして、背中に回していた腕を首へ移動させ彼の顔を引き寄せる。
「んっ・・・」
触れるだけのキスを数度繰り返す。
唇が触れ合うたび、私の身体に回された陸の手が私を求めるように強く抱きしめてくる。
「お誕生日、おめでとう。陸」
「ありがとう、珠洲」
キスの合間にじゃれあうように言葉を紡ぐ。
呼びなれない私の名前を陸が口にするだけで私は嬉しくて胸が苦しくなる。
陸、大好き。
来年も陸の隣にいられますように。
そんな想いが通じますように、と願いながら彼の年の数なんてとっくに終えたキスを更に続けた。