真っ青な空が広がる下。
本日、私たちは買いだし部隊。
街に下りると騒々しさにドキドキする。
「こはるさん?」
「はいっ、なんでしょうか?」
「なんだか顔色、悪くないですか?」
「え?」
名前を呼ばれて振り返れば、千里くんが私を心配そうに見つめていた。
その真剣な瞳に一瞬慄くが、笑顔をつくって誤魔化す。
「ちょっとだけ、緊張してしまって」
「緊張?」
「はい、その・・・人がたくさんいる場所には来た事がないので」
昔に思いを馳せれば独りだった頃しか浮かばない。
ただ、まわりを傷つけないように大人しく生きるしかない。
長く伸ばしていた桃色の髪は無残に斬りおとされ、名前なんてなく忌み嫌われた。
人がたくさんいる場所は、だから少し怖い。
自分のことを知っている人がいるかもしれないから。
だけど、そんな風に私が怯えていると心配をかけてしまう。
「・・・怖いなら怖いって言ってもいいんですよ。
あなたは僕が支えますから」
「え?」
後半、何を言っているのか雑踏のせいでうまく聞き取れない。
顔を近づけると、千里くんが驚いたように一歩ひいた。
「近いです!あなたはどれだけぬけているんですか!
仮にも僕だって男なわけだし、少しくらい警戒すべきだと思いますよ。
素直なところはあなたの美点でもありますが、欠点にもなります」
「えと・・・ごめんなさい」
どうやら千里くんに不愉快な思いをさせてしまったみたいだ。
顔を赤くするほど怒らせるなんて、私は駄目だな
「違いますっ!あぁ、もう!」
眉間に皺を寄せて顔をしかめながら、千里くんは私の手を取った。
「ほら、こうすれば怖くないでしょう」
「・・・千里くん」
繋がれた左手から千里くんのぬくもりが伝わる。
その優しさが、胸の奥に広がっていくようだ。
「じゃあ、こはるの右手は俺と繋ごうか」
唐突に駆くんが現れて、私の右手を握る。
「か、駆くんっ」
「人が多いしね。千里だけじゃ頼りないだろう?」
「そんな事言って結賀さんは彼女に触りたかっただけなんじゃないですか。
あーやだやだ。男の嫉妬は見苦しいって言いますもんね」
「千里?何かいった?」
「ひぇぇ!なんでも!」
駆くんがにっこり笑うと怯えたように私で姿を隠そうとする千里くん。
振り返れば、正宗さんが苦笑いを浮かべていた。
「どうしましょう!正宗さんだけ仲間はずれに・・・
そうだ!千里くんか駆くんと手をつなげば!」
「「え?」」
「い、いや。こはる・・・俺は荷物もあるし、大丈夫だ」
「そうですか?」
なんだか正宗さんだけ寂しそうな気がしたんだけど、良いのだろうか。
「そんな事より、早く買出し済ませて帰ろう」
「はい!そうですね!」
独りでいた頃は知らなかった。
人に触れると暖かいという事を。
そのぬくもりが埋められない傷を少しずつでも癒してくれるということを。
空を見上げれば相変わらずの晴天で、私は微笑んでいた。
もう、こわくない。