愛は奪うものではなく6(ヴィル→ラン←ニケ)

願いが一つだけ叶うなら僕は何を願うだろう
そんな事を考えながら目を閉じる。
僕の願いは多分、きっと-

 

 

 

 

ギルドからの連絡と定期報告も済んでも僕はその場から動かなかった。
森は居心地が良い。
緑に囲まれて、深呼吸をすると不思議と落ち着いた。

「おい」

「・・・何か用かな」

いつかのようにゆっくりと振り向けばあの時とは違う小さな姿。
けれど、射殺すような視線は変わっていない。

「人殺しをいつまで続けるつもりでいるんだよ」

「え?」

また彼女に近づくなといわれると思っていたので、想定していなかった言葉に思わず聞き返す。

「だーかーらー!いつまで人殺すんだって聞いてんだよ」

「そんなの・・・っ」

いつまでだろう。
考えた事がなかった。
人をもう殺したくない自分とそうしなきゃ生きていけない事も知っていて諦めている自分がいる。

「いい加減腹くくれって言ってんだよ」

胸倉を掴まれ、ぐっと顔を引き寄せられる。
彼の瞳の色は僕のそれに非常に似ていて、まるで自分に見つめられているような感覚に陥る。

「あいつが欲しいんなら俺様から奪ってみせろよ」

「そんな事」

出来るわけないじゃないか。
こんなに汚れた手で僕は彼女に何が出来るって言うの?
冷たい瞳で睨むともう興味をなくしたかのように彼は僕に背を向けて歩き始めた。

「・・・奪わせるつもりなんてないくせに、卑怯だ」

小さくなっていくその背中に向けて吐いた言葉。

 

 

 

愛は奪うものではなく

 

 

 

身体が小さくなった俺は生徒たちに紛れて授業を受けることをやめた。
あいつが見える距離の木に登って時間を潰す。
あいつの笑った顔を何度も何度も頭に叩き込んだ。

(なあ、サファイア・・・
お前が今の俺を見たらなんていうんだろうな)

女であることを知ってからお前を信じることをやめたのに。
今、俺はお前とおんなじ女をこうやって見守っている。
馬鹿だなぁ、と笑うのか。
それとも・・・

「ヴィルヘルム」

木の下から呼ばれ、下を見るとランがいた。
うっかり眠っていたらしい。

「なんだよ」

「これからユリアナと城下に行くんだけど一緒に行かない?」

「俺様はここにいるからいい」

「・・・そう?じゃあ行って来るね」

「おう」

ランがいないのならこんな木の上で昼寝する必要もないんだけど。
降りるのも面倒だからこのままでいいや。
もう一度目を閉じると、あいつのことを思い出す。
気弱なふりをして、血の匂いをぷんぷんとさせた奴。
腹の内に抱える狂気に気付くのは俺も同じだから。
ランの中にいた頃、辛い時はあいつの傍にいって眠っていた。
きっと気持ちが緩む場所だったんだろう。

「俺の名前なんて呼んでねぇであいつの名前呼んでりゃいいのに」

俺は独りだったんだから呼ぶ必要なんてなかったのにな。
いつまでも傍にいられるわけがない。
だって俺は魔剣なんだから。
あいつはそれに気付いているはずなのに、それに気付いてない振りをする。
それが最近、苦しい。

「・・・ラン」

ただ名前を呼ぶ。
その声はいつまで届くんだろうか

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