ピンクのガーベラ(千こは)

「わぁ!千里くん!みてください!」

船が街付近に着陸して3日間の自由時間が与えられた。
最初は千里くんが外に出たがらないと思っていたので船の中で過ごそうかと考えていた。
けれど、千里くんが街に行ってみようと誘ってくれた。
それが嬉しくて私は笑顔で頷いた。

街には人が溢れていて、久しぶりに大きな街だった。
その街角で花屋さんを見かけた。
植物には家庭菜園で慣れ親しんでいるせいもあってか、ついつい目がいってしまう。
花屋さんには見たことがないような綺麗な花が色とりどり飾られていた。

「ああ、それこはるさんみたいですね」

「え?そうですか?」

二人で見ていたのはガーベラという花。
色んな色があるようだけど、私たちは桃色のガーベラに心を奪われた。

「だってあなたの髪と同じで綺麗な桃色ですよ」

「わぁ!ありがとうございます!
お花と一緒だなんて嬉しいです」

「あなたって人は花と一緒ということよりももっと僕が頑張って綺麗だって言って部分を」

「あ、千里くん!他にも色んな花があります!」

繋いだままの手をひくと、千里くんはしょうがないというように笑ってくれた。

 

 

それから二人でぶらぶらと街を見てまわると、そろそろ戻らなければいけない時間だ。
街で宿をとっても今は構わないと思うけど、今日は泊まるつもりじゃなかったし、千里くんと一緒に街に出かけられただけで十分幸せ。

「それじゃあ千里くん、そろそろ戻りましょうか」

「あ、すいません。こはるさん。ちょっと買い忘れたものがあるので、少しだけここで待っててもらってもいいですか?」

「え、それなら私も一緒に・・・」

「すぐ戻りますから、絶対ここにいてくださいね!」

有無を言わせない彼の言葉にこくりと頷く。

「それじゃあ、いってきます」

「はい、いってらっしゃい」

繋いでいた手が離れて少しだけ寂しい。
道の隅に避けて、一人で街行く人を見ている。
千里くんがさっきまで隣にいてくれたからなのかもしれない、街が楽しくて仕方がなかったのは。
何を見ても凄いって感動してたのに今はただ景色を見つめるだけ。
千里くん、何の用事なんだろう。
私も一緒に行きたかったな。
けど、千里くんが待っててと言ったんだから私はここで彼を待たないと。
スカートの裾をきゅっと握ると、その手に誰かが触れた。

「すいません、お待たせしました」

「千里くん!」

「そんな迷子になった子供が親を見つけた時のような顔しないでください」

「え、と・・・それはどういう顔でしょうか?」

「不安で寂しくて仕方なかったのにすっごい安心したって顔です」

「・・・はい。千里くんの顔をみて安心しました。
おかしいですよね、少ししか離れていないのにこんなに不安になるなんて」

「こはるさん、大丈夫です」

千里くんは私の手をきゅっと握ってくれた。

「あなたには僕からもう離れられない呪いがかかってるんですから。
あなたが嫌だっていったって離れません」

「・・・はい!」

さっきと同じように手を繋いで私たちは船へ戻った。
千里くんの片手には何かの袋がぶら下がっていたけれど、私はそれをあまり気に留めなかった。

 

「それじゃあ今日はとっても楽しかったです!」

部屋の前に着くと、千里くんにお礼を言う。
今日も千里くんと一緒に過ごせて幸せ。
感謝の気持ちを告げ、千里くんに向かって微笑むと千里くんは意を決したように口を開いた。

「あの、こはるさん」

「?はい」

「これ」

手に持っていた袋からそれを取り出して、私に差し出してくれた。

「わぁ・・・!」

それは今日一緒に見ていた桃色のガーベラ。
千里くんの手からそれを受け取ると、ふんわりと花の優しい香りがした。

「ありがとうございます!すごく嬉しいです!」

「はい、良かったです」

安心したように千里くんは微笑んだ。

「えへへ、すっごく嬉しいです」

花束を貰ったことも凄く嬉しいけど、千里くんが私のためにとわざわざ用意してくれたことが凄く凄く嬉しい

「こはるさん・・・」

千里くんが私を引き寄せて、そっと抱きしめてくれた。
花束は二人の間で潰れないようにして腕をまわし、千里君の背中を抱きしめる。

「大好きです、こはるさん」

「はい、私も千里くんのこと大好きです!」

千里くんは嬉しそうに笑うと、ちゅ、と頬に口付けた。
何度もそうしてもらっているのに、嬉しいけど恥ずかしくて顔が真っ赤になる。

「ガーベラの色間違えましたね」

「え?」

「だって今のこはるさん、桃色じゃなくて真っ赤だから」

「うぅ、それは千里くんが・・・」

「僕がなんですか?」

額をこつんとあわせて千里くんが私をからかうように笑う。
だからお返しのつもりで今度は私から唇にキスをした。

「!!」

「えへへ、お返しです」

でも自分でやったけど恥ずかしくてさっきよりも真っ赤になってしまう。
千里くんはというと顔を真っ赤にしていた。

「あなたって人は本当に末恐ろしい人です」

「何か言いましたか?」

「好きですって言いました」

「はい!私も千里くん、大好きです!」

 

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