幼い頃、凌さんがプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみ。
それは今でも私の宝物で、いつも部屋に飾られている。
子供っぽいと思われるかもしれないけど、部屋に独りでいるときもたまに抱きかかえてしまう。
ぎゅっと抱きしめれば凌さんのことが思い浮かんだ。
それが少し、恥ずかしい。
「凌さん・・・」
私は少し欲張りになってしまったのかもしれない。
凌さんとすれ違いが解決してから、一緒にいる時間が増えた。
だから彼が隣にいるのは以前よりずっと当たり前になってしまった。
彼に触れたい、と頭に浮かんだのを慌てて打ち消す。
その時、家のチャイムが鳴った。
慌てて出ると、まさに今考えていた人だった。
「いらっしゃい、凌さん」
「夜遅くにごめん、沙弥」
「ううん、どうぞ上がって」
「うん」
部屋の中に誘導すると凌さんは少し頬を赤らめて私を見下ろしていた。
「?どうかしたの?」
「いや・・・君がぬいぐるみを抱きしめてるのが、その・・・可愛い」
「!!やだ、すっかり忘れてた」
ぬいぐるみを抱きしめたまま出迎えてしまっていた事にあわてて、私はぬいぐるみを定位置に戻した。
ふ、と後ろから抱き寄せられる。
「凌さん?」
「ごめん、沙弥。
君に触れたくて・・・」
ぎゅうっと抱きしめられるその温度が私も感じたかった。
回された腕にそっと自分の手を重ねる。
「私も今・・・凌さんに触れたいって考えてたから会いに来てくれて嬉しい」
「沙弥・・・!」
さらにきつく抱きしめられると、凌さんの吐息を耳元に感じる。
それが恥ずかしくなって私は彼を振りほどくように体制を変えて、自分から抱きついた。
「沙弥、あんまり可愛いことしないでくれ」
「・・・凌さんばっかり抱きしめるのはずるいと思うの」
「ああ、ごめん」
悪いなんて思ってないような優しい声色で囁かれるとそのままもう一度抱きしめられる。
「もう少しだけこのままでいさせてくれたら許してあげる」
「沙弥もそんな風に言うようになったんだね」
「・・・もう!」
いつも凌さんにドキドキさせられてばかりだから私も仕返ししたかったんだけど、全然勝てない。
恥ずかしいのを誤魔化すように凌さんの顔を見ようと顔を上げると額に凌さんの唇が触れた。
「これで許してくれる?」
凌さんのそういうのずるい。
ただただ自分の顔が熱くなっていくことだけを感じながら私は凌さんの胸に頬を押し当てた。
驚いたことに凌さんの鼓動がトクントクン、といつもより早い気がする
「凌さんも・・・ドキドキしてるの?」
「当たり前だよ。大好きな君に触れているんだから」
ああ、おんなじ気持ちなんだと思うと嬉しくなり私は背伸びをして彼の頬に口付ける。
「お茶を淹れるから座ってて」
ご機嫌になった私は彼の腕からすり抜けて台所へお茶を淹れにいこうとした、が-
「沙弥、俺はさっきも言ったよね?
あんまり可愛い事をしないでって」
あっという間にベッドの上に押し倒される格好になった。
「凌さん、あの・・・」
「俺が満足するまで離してあげない」
凌さんの熱っぽい瞳から目を逸らすことが出来なくて・・・・
そのまま口付けを受け入れた。