愛は奪うものではなく7(ヴィル→ラン←ニケ)

自分にとって都合の悪い事には目を瞑る。
それが悪い事なの?
知らない、知りたくない、私はまだあなたと・・・

 

 

「ラン」

名前を呼ばれて振り返る。
そこにはニケがいた。
いつもの穏やかな笑みではなく、ピリついた空気を纏って私の前に立っていた。

「ニケ、どうしたの?」

「ちょっとだけ時間もらえないかな」

「うん、大丈夫だよ」

ニケの後ろをついていつもの部屋へ向かう。
パタン、と扉を閉めると緊張した空気が流れる。
そういえばこの部屋でニケに好きだといわれてキスをされたんだ。
その次の日、ヴィルヘルムが前に現れてすっかり頭の隅にやっていた。

「あの・・・ラン」

「うん」

「君の気持ちを無視してキスした事、申し訳ないって思ってる」

ニケが真剣な瞳で私を見つめる。
その瞳はヴィルヘルムに似ていて、どきりとした。
違う、ヴィルヘルムはそんな瞳で私を見ない。

「だけど君を好きな気持ちに嘘偽りはないんだ。
僕は君が好きだ」

ニケは優しい人。
いつだって私に優しくしてくれる。
彼の隣は凄く落ち着いて、ここにいるときは悲しい事も辛い事も考えずにいられた。

「私は・・・」

だけど彼の言葉にどう答えていいのか分からない。
だって私は汚れてる
魔剣が宿る身体なんて・・・

「ごめんなさい、ニケ」

「ううん、いいよ。分かっていたから」

ニケは一歩私に近づくと手を取り、甲へ口付けを落とした。

「だけど忘れないで。
僕は必ず君を奪うから」

心臓が高鳴った。
ニケじゃないようなその瞳に。
甘い言葉に、私は思わず視線を逸らす。

「話聞いてくれてありがとう、すっきりした」

「・・・うん。
それじゃあ私、戻るね」

「うん」

ニケはいつものように微笑んでくれた。
それを見て安心して私もようやく笑えた。

 

愛は奪うものではなく

 

 

 

手をぎゅっと握る。
力加減も怪しくなってきた。
ため息をつくと、ランが不思議そうな顔をしていた。

「ん?」

「ヴィルヘルムがため息つくなんてどうかしたの?」

「なんでもねぇよ」

寮へ戻る道。
俺はランの少し前を歩く。

「お前、あの弱そうな奴のことどう思ってんの?」

「弱そうな奴って?」

「・・・薬草煎じてばっかいる」

「ニケのこと?」

「名前なんて知らねえよ」

「もう・・・ニケのことは大事な友達だと思ってる」

「ふうん」

友達、ねぇ。
キスされてたくせに友達扱いなんて哀れな奴。

「じゃあ俺は?」

「え?」

「俺の事はどう思ってんだよ」

俺の言葉を理解したらしく、見る見る内に赤くなっていく。

「ヴィルヘルムのことは・・・その、分からない」

「ふうん」

分からない、ねぇ

「嫌いって言われるかと思った」

「どうして?」

「お前が今苦しんでいるのは俺のせいだろ」

俺が・・・魔剣をその身に宿さなければお前は普通の女でいられた。
人を殺めることも、周囲から好奇の目に晒されることもなかった。
そのか細いからだで抱えるべきものじゃないのは俺も知っていた。

「・・・でもヴィルヘルムがいてくれたから私は生きてる」

まだ余韻が残る頬は赤い。
だけど、その瞳は凛としていた。
こいつ、誰かに似てるって思ってたけど今気付いた。
サファイアに似てるんだ。

「お前、本当に馬鹿だな」

生きているだけでは何も変わらないのに。
もしかしたらあの時死んでた方が楽になれたかもしれないのに。

「俺、ちょっと寄り道してくから先戻ってろ」

「え、ヴィルヘルム?」

ランの言葉を無視して、踵を返し走った。
行きたい場所があるわけじゃない。
ただ・・・

 

 

 

 

たどり着いたのはあいつが好きな花の木の下だった。
それを見上げて、俺は息を吐く。

「もうそろそろ限界なんじゃないかい?」

「・・・誰だ」

振り返ると褐色の肌の男がいた。

「君の魔力はもうほとんど残っていないんじゃないか?」

「うるせえよ」

手を強く握る。

「君の場合、それは魔力というよりも生命力だね。
それを使って身体を実体化しているなんて愚かな真似を・・・」

「うるせえって言ってるのが聞こえないのか?」

睨みつけるとそいつはにやりと嗤った。

「君の心は人間のままなんだね。だけど人間としては狂ってる。
それなのに、君は今更あの少女に心を動かされてしまったんだね。
彼女の傍にいるためにわざわざ命を削って実体化して、大人の姿も保てなくなったのにまだ続けるなんて・・・
君は面白いね」

「・・・お前、何者だ?」

「さあ?私はただの保健医だよ。
それじゃあ、素晴らしい余生を」

離れていくその後ろ姿をひたすら睨みつけた。
きつく握りしめたはずの手は、爪痕すら残らないほど弱っていた。

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