「酷い雨でしたね!」
休日のある日のこと。
ナナさんと買い物に出かけていた帰り道。
急に雨に降られてしまい、天使塔に着くころにはすっかり濡れ鼠になっていた。
「ああ、早く着替えないと風邪をひいてしまうな」
「はい、それじゃあ」
私は自分の部屋に戻ろうとナナさんに背を向けた・・・が、
強い力で引き寄せられて驚いた瞳でナナさんを見上げていた。
「ナナさん?」
「俺の部屋で休もう」
「え?」
それは着替えてからでも、と言おうとしたがナナさんの耳が赤くなっていることに気付いた私は言葉を飲み込んでいた。
ナナさんの部屋に入ると、すぐバスタオルを出してくれて、それを私の肩へとかけてくれた。
「ありがとうございます」
「いや・・・早くシャワーを浴びた方が良い。風邪をひいてしまう」
「はい、それじゃあシャワーお借りします」
何度か使ったことのあるナナさんの部屋のシャワー。
ナナさんの横を通り過ぎようとすると不意に後ろから抱きすくめられる。
「ナナさん?」
「すまない、雨に濡れたフウが・・・その、色っぽくて」
「・・・っ」
思いがけない言葉を言われて、私の顔は熱くなる。
雨に濡れた身体はすっかり冷え切っていたはずなのに、ナナさんが触れている部分は全て熱い。
その熱が、恥ずかしいけれど心地よくて離れがたい。
「ナナさん、わたし・・・」
ナナさんの手を解いて振り返ると、そのまま彼の胸に飛び込んだ。
「すごくドキドキしています」
何度もナナさんには触れているのに、どうしてだろう。
馬鹿みたいに鼓動がうるさい。
顔を上げるのが恥ずかしくて、そのままきつく抱きしめた。
「・・・くしゅんっ」
ナナさんがかわいらしいくしゃみが聞こえて、顔を上げるとナナさんも顔が真っ赤だった。
「・・・シャワー、先にはいってください」
「いや、フウが先に入りなさい」
「でも、」
押し問答を繰り返しているうちに、今度は私がくしゃみをした。
「「・・・」」
二人でじっと見つめあうと、気付けば笑っていた。
「一緒に入りましょう?」
「ああ、そうしようか」
二人で入るには狭いシャワールームだけれど、構わないだろう。
私たちがシャワーを浴び終わって、窓の外を見るとすっかり雨は上がっていた。
「ナナさん、見てください!」
二人で窓の傍に寄って、外を見る。
綺麗な七色の虹が架かっていた。
「綺麗ですね、虹」
「ああ、綺麗だ」
雨上がりがくれた、その綺麗な虹は私たちを笑顔にしてくれた。
こういうありふれた日常を、ナナさんとこれからも過ごしていきたい。
私はそんなことを考えていた。
Heaven’s様:「恋愛幸福論で10のお題 Ver.3」