「どうしたの?これ」
千尋くんのお見舞いに行くと、テーブルには大量の苺があった。
「狗谷先輩から頂いたんだ」
なんでも苺狩りに理佳子さんと行ったらしく、大量に苺も持って帰ってきたらしい。
それで果物といえばお見舞い!!という流れになったらしく、千尋くんへ・・・という事になったそうだ。
「でもさすがにこれは食べきれなさそうで」
駿くんは困ったように笑った。
「俺もこんなにいらないからもって帰って兄ちゃんたちで食べていいよー」
「そう?それなら頂いていこうかな」
どう考えても千尋くんが食べきれる量じゃないし、もらって帰って料理してもいいかな。
「じゃあ、帰りに家まで送るよ」
「ありがとう、駿くん」
見つめ合って微笑んでいると、あからさまな千尋くんのため息が聞こえた。
「俺のことはいいからもう帰って二人でいちゃいちゃしてれば?」
「・・・っ!千尋!」
思わず赤面してしまったが、その後も千尋くんと他愛のない話をし、陽も傾いてきたので帰ることになった。
「上がって、駿くん」
「・・・お邪魔します」
苺を運ぶのを手伝ってもらったので、そのまま帰すのは申し訳なかったので夕食に誘う。
一人分作るより、二人分作るほうが楽しいし。
最初は遠慮していた駿くんもそれなら・・・と了承して部屋へ入ってくれた。
「沙弥さん、何か手伝いましょうか?」
「ううん、ゆっくりしてて」
「せっかくなので、僕にも手伝わせてください」
「それじゃあ、苺を洗ってへたを取ってもらってもいい?」
「分かりました」
いつも一人で立っている台所に駿くんがいる。
それがくすぐったくて、料理をしながらちらっと彼を見ると思いのほか楽しそうな顔をしていた。
「楽しそうだね、駿くん」
「沙弥さんとこうやって台所に立つのって新鮮だから」
「うん、そうだね」
「結婚したらこういう風に一緒に台所立ったりできるんですね」
「そうだね・・・、え?」
料理する手を止めて、思わず駿くんの方を向いた。
「そうなれれば良いな」
駿くんがにっこり笑うから、私も思わず微笑んで頷いた。
「そういえば苺、食べました?」
「ううん、まだ」
今日は簡単にパスタにしたので、あとはパスタが茹で上がるのを待つだけ。
駿くんに処理してもらった苺は後でジャムでも作ろうかな、と考えていた。
そうすれば千尋くんも病室で食べられるだろう。
「はい、どうぞ」
苺を一つとって私の口元へと運ぶ。
「・・・駿くん?」
「はい、あーん」
「・・・あーん」
恥ずかしくて顔から火が出そうな気持ちになったけど、口を開けると嬉しそうに駿くんが私の口の中に苺を入れてくれた。
苺は瑞々しくて、甘くて美味しい。
「っ!すっごく美味しいよ!駿くん!」
飲み込むと目を輝かせて駿くんへ感想を言う。
これはジャムだけじゃもったいない。どうしよう!
「じゃあ僕も」
「うん、おいし・・・」
苺を食べるのだろうと想った。
だけど、駿くんは顔を近づけて私にキスをした。
突然のことに驚いて、一歩下がろうとするがいつの間にか腰に手が回されていて後ろへ下がれない。
唇の隙間から彼の舌が入ってきて、舌が絡まる。
深くなるキスに私は必死についていこうとしたが、唇を離す頃には息が上がっていた。
「甘くて美味しいね」
「・・・もう!」
駿くんはたまに大胆になって、私のことを翻弄する。
これから先、苺を食べる度に今日のことを思い出すだろう。
後日、苺ジャムをプレゼントした時も同じようなことがあったのはまた別のお話。